Precious・前編(1/3)
〜みのりSIDE〜
「ねえミィちゃん、夏輝さん喜んでくれるかな?」
「ふみゃ?」
抱き上げた私の腕の中
目をキラキラさせて遊んでとせがんでいたミィちゃんは、キョトンとした顔で首を傾げた
6月6日―――今日は、夏輝さんの誕生日
ずっと前から山田さんにお願いしていた甲斐あって、午後はオフにしてもらえたし
夏輝さんも夕方には仕事が終わる予定だという事で、私は仕事の合間にちょっとずつお祝いの準備をしてきていた
「うん、これでケーキも完成!」
以前貰った合い鍵を使ってお邪魔した、夏輝さんのマンションのキッチン
製菓用の絞り袋を手に集中していた私は、デコレーションの終わったケーキを注意深くチェックしてから、ようやく満足の声を上げて‥‥愕然とした
「うそ、もうこんな時間!?」
準備を始めた時は窓の向こうには青空が広がっていたのに、今は完全に闇に沈んでしまっている
(全然気付かなかった‥‥いけない、早くしないと夏輝さんが帰ってきちゃう!)
慌ててシンク周りを片付け始めた私は、リビングの隅で小さな影が音もなく動いたのに気付かなかった
「えーと、あとは‥‥」
いつも綺麗に整えられている部屋の中を、今日はバタバタと動き回る
キッチンの広いテーブルの上には完成したばかりのケーキや、いくつかの料理の皿が並んでいて
夏輝さんの好きなシャンパンも冷蔵庫で冷えているし、もちろんプレゼントだって準備万端
でも何よりもまず、私自身がちゃんとした格好で夏輝さんを出迎えてあげたかったから
(だってやっぱり、好きな人の誕生日は特別だもん‥‥‥あ)
ふと、頭の中に先日夏輝さんと交わした会話が思い浮かんで、持ってきた着替えを取り上げた手が止まった
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