夏のはじまり(1/4)
≪JADE、夏のスペシャルイベント決定!!≫
『ファンクラブ会員限定、一夜限りのプレミアライブ開催!』 『楽曲、演出すべてメンバーによるプロデュース!』
そんなビッグニュースが日本中を賑わせたのは、先月始めの事だった。
‥‥‥‥それから約―ヶ月後の今日、都内某所のとある楽器店。
この店のカウンターの奥には、店長の馴染みの客だけが通される部屋がある。
もっとも、そこに部屋があると知っているのは店長とスタッフ、案内された客くらいなもので。
シークレットスペース。
いつの間にかそう呼ばれるようになったその部屋に、今日は珍しく一人の若い男の姿があった。
トレードマークの金髪に女性受けするだろう整った顔立ち。
彼は慣れた様子で、用意されたコーヒーに手を伸ばす。
その時。
「よお、夏輝! そういやお前、また今度彼女と共演するらしいじゃねぇか?」
「っ!?」
ゲ、ゲホッ‥‥ゴホッ!
すぐ後ろから唐突にかけられた低い声に、俺は飲みかけていたコーヒーで思い切りむせた。
(‥‥‥今、気配なんかなかったよな?)
慌ててカップをテーブルに戻して咳ばらいを繰り返しながら、手の甲で目尻を乱暴にぬぐう。
驚き過ぎて、むせるのと一緒に涙まで浮かんでしまっていたからだ。
(まったく‥‥冗談じゃないっての!)
この店に来たのは、半分は仕事―プレミアライブ―のためだったけど。
今日都合がつくメンバーが俺しかいなくて、本当に良かった。
こんなシーンをアイツらに見られたら、ここぞとばかりにからかい倒されるのは目に見えている。
しかも。
秋羅と冬馬は前からだけど。
俺が、その‥‥みのりちゃんと付き合い出してからは、春までが二人に便乗するようになって。
「‥‥‥‥‥‥ハァ」
俺は、決して夏の暑さや忙しさのせいじゃない頭痛にため息をついた。
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