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想い結び、恋結び(2/3)

「良かったら、飲んでみる?」



深紅のカクテルグラスが私の前に差し出された



「え、でも‥‥‥これは秋羅さんが注文した物ですから」


「だけどみのりちゃん、これが気に入ったんだろ?」



慌ててグラスを戻そうとした私の手は、秋羅さんの大きな手に包み込まれて


‥‥‥‥気が付けば、私は秋羅さんの胸にもたれ掛かる態勢になっていた


「きゃっ‥‥秋羅さん!」


「その代わり」



さすがに抗議しかけた私の耳元に、秋羅さんが口を寄せる


「俺と一緒にいる時以外このカクテル飲むの禁止、だからな?」


「‥‥え? どうしてですか?」


直前までふくれていた筈なのに、その唐突すぎる言葉に思わず目を瞬かせて顔を上げると



「‥‥‥‥‥理由、知りたい?」


さっきまでの秋羅さんのそれよりずっと低い声がして


熱を帯びたその囁きと一緒に、私の耳を柔らかな感触が掠めた



悪寒にも似た感覚に私の体がビクッと震えると、それに気付いた秋羅さんは、私に触れる手にいっそう力を込める


(あ‥‥秋羅さんってば、いくらお店の中が薄暗いからって‥‥‥!)









『キス・イン・ザ・ダーク』
     (暗闇で私にキスして)






「それがあのカクテルの名前だよ‥‥‥まあ、恋人に秘密のキスをおねだりしたい時に使う符丁みたいなモノだな」



結局、秋羅さんがその『理由』を教えてくれたのは翌日の朝、私が彼の腕の中で目覚めた後だった



「そんなっ、私はおねだりなんて‥‥‥」


恥ずかしさに一気に目が覚めて飛び起きた私の素肌の上を、上掛けがするりと滑り落ちる



「きゃあああっっ!!」



盛大な悲鳴を上げてもう一度ベッドに潜り込むと、堪えきれなくなったらしい秋羅さんは声を上げて笑い出した


「何だよ、今更恥ずかしがる必要ないだろ‥‥‥それに」


「‥‥秋羅さん?」



その大きな手が上掛け越しに、まるで子供をあやすみたいに私の頭をポンポンと叩く





「俺、今まさにこれ以上ないってくらいにねだられてるよな? みのりちゃん」



「そんなの知りませんっ!!」





誰にも邪魔されない、二人きりのオフの日の朝



私の絶叫と秋羅さんの笑い声は、窓から差し込む朝の光の中で重なり合って


やがてひとつに溶けて、弾けて消えた―――





―END―

⇒あとがき

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