シークレット・キス(2/3)
驚いて振り返った私の視界に飛び込んできたのは、鮮やかな赤い髪と優しい瞳。
春はベンチの背もたれに手をついて腰をかがめると、私と未来ちゃんを順に見た。
「春お兄ちゃん!」
パアっと笑顔になった未来ちゃんの頭をその大きな手で優しく撫でながら、春は視線を私に向ける。
「みのり、遅くなって悪かった。…こんなに寒いんだから、家で待ってれば良かったのに」
未来も、暗くなると母さんが心配するぞ。
すっかり『春お兄ちゃん』になっている春に、私と未来ちゃんは顔を見合わせて笑った。
「大丈夫だよ。ちょっとくらい寒くても、桜の花を見ていたかったの」
「未来もみのりお姉ちゃんに携帯電話を借りて、お母さんにもちゃんと言ったもーん」
得意げに胸を張る未来ちゃん。
「…とりあえず、ずっとこの寒い中にもいられないだろう。このまま俺の家に行こう」
春は仕方ない、という様に苦笑しながら私達を促した。
並んで歩き出した私達の少し前を未来ちゃんはスキップしながら駆けて行く。
「みのり、未来に付き合わせて悪かったな。アイツ、わがまま言ったりしなかったか?」
隣を歩く春が、私の肩を抱き寄せながら聞いた。
心配性な『春お兄ちゃん』に、私は笑顔を向ける。
「春、そんなに心配しなくても大丈夫だよ?…私も本当に妹が出来たみたいで楽しかったもの」
私の答えに、春は穏やかに笑みを浮かべて私の肩に置いた手に力を込めた。
え、と思うヒマもなく春は私の唇に自分のそれを重ねる。
(!……ちょっ …春、未来ちゃんがいるのに…!)
慌てて春の胸を両手で押したけれど、当の春は何食わぬ顔でチラリと未来ちゃんを見る。
そして未来ちゃんが公園の入口近くにある遊具に気を取られているのを確認すると、また顔を近づけてくる。
「いっそ、本当の姉妹になる?」
驚いた私の視線の先には、真っすぐに私を見つめる春の優しい瞳があった。
決して表情豊かでも雄弁でもない春の、情熱的な本心を余すところなく映し出しているその瞳。
抗えるワケがない。
私は春の上着を掴んだ手をギュッと握ると、春の唇を……春の情熱をもう一度受け止めるために、ゆっくりと目を閉じた。
思いがけず冷え込んだ春の夜。
寒すぎて、お花見に来る人さえいない公園で。
凍える桜の花達だけが、秘密の口づけを交わす私達をそっと見守っていた。
それはやがて永遠を誓う二人の、甘い契約の証−。
→あとがき
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