ひとひらの花(3/5)
「んっ‥‥!」
突然の事に反応出来ずにいた私に、春は浅く深く何度も口づけてくる。
「はぁ‥‥ぁっ‥‥は、る‥‥」
激しい春とのキスに私の体はどんどん熱くなって、頭の中もまるで熱にうかされているみたいにボンヤリとしてきた、その時。
カランッ!
「っ!!」
‥‥‥すっかり、忘れてた。
カラ、カラン‥‥!
私が手に持ったままだったアイスティーのグラスの中で、溶けかけた氷が涼やかな音を立てる。
「‥‥‥‥」
わずかに唇を離した春は、それを自分のグラスと一緒に私達のすぐ横にあった花台にそっと置いた。
そして、今度は指先を私のあごに添えて上向かせる。
「‥‥春」
両手が空いた私が春の首筋に抱き着くと、春は口づけたまま小さく笑った。
差し入れられた春の舌が、私の口内を蹂躙する。
内側を優しくなぞられたかと思うと、執拗に絡めてきた舌を強く吸われたりもした。
(あっ、ダメ‥‥)
膝から力が抜けそうになった私の体を、春の力強い腕がしっかりと抱き留める。
やっぱり。
春がさっき飲んでいたお酒はかなり度数のキツイ銘柄だったみたいで、アルコールにあまり強くない私は口移しで与えられる残り香だけで酔ってしまいそうになる。
そんなフワフワした気分にひたっていると、いつの間にか春の唇は私の首筋に降りてきていた。
「‥‥!」
密着していた体を少しだけ離した春が、その大きな手で私の胸に触れたのにハッとして私は自分の体に力を込めた。
「春っ‥‥ダメ!」
「みのり?」
さすがに春の顔を直視できなくて俯いた私の耳元で、私の名前を囁かれる。
私だけじゃない、JADEファンを魅了する艶やかな低音。
そのどこまでも甘い囁きに、今すぐすべてを委ねてしまいたい気分になる。
でも。
私は、そんな甘い誘惑を必死に堪えて春の顔を見上げる。
「今は、ダメでしょ?‥‥もうじき、未来ちゃん達もここに来るんだから」
春は『せっかくの花火を特等席で見たい!』と弟妹達におねだりされて、元から予約していた二部屋の他にこのスイートルームを押さえたのだ。
だからちょっとだけ、ホントは私もかなり残念だけど‥‥‥今日は『オアズケ』。
「ね‥‥?」
「みのり‥‥‥」
私の胸は、まださっき春と交わした甘いキスの余韻で疼いていた。
けれどそれに気付いているはずの春は、私の腰を抱き寄せてもう一度体を密着させてから口を開く。
「未来達は来ないよ‥‥母さんに頼んであるから」
「お母様に?」
驚いて目を丸くした私を見て、春は艶やかに確信犯の笑みを浮かべた。
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