Darlin' | ナノ


耳朶を焦がす魔法(3/4)

今の私はもう、ここがスタジオの給湯室だという事も、サイフォンにかけっぱなしになっているコーヒーの事も頭になくて





いつもと変わらず、落ち着いて見えた春


その春からは想像も出来ないくらいに荒々しい、それでいて蜜が滴るような甘いキスに、誘われるがまま溺れていった






「みのり」



「ん‥‥‥」


春に抱きしめられている体がくるりと回って、背中を壁に押し付けられる


冷たく冷えきった壁が、今の私のほてった体には心地好かった



「みのり,どうする?」



「ど、どうするって‥‥?」



もう一度、春の唇が耳元で私の名前を紡ぐ



「それとも、みのりはこのままでいい?」


「‥‥っ」


その低音と熱い吐息に、私の体を寒気にも似た感覚が走り抜ける







私の気持ちなんて、とっくに分かってるくせに



それでも『こういう時』の春は、いつも私に言わせようとするんだから



未だに恥ずかしさを捨てきれない私の反応を楽しむ春は、ちょっと‥‥‥‥‥ううん、かなり意地悪だ





まだ呼吸が整わないまま、私は春の顔をまっすぐに見上げる


「ん?」



余裕の表情で笑う春



その肩に置いていた手を首の後ろに回して、そっと引き寄せた



至近距離で二人の視線が絡み合う



「ねえ、春? 全部‥‥‥全部、春の好きにして?」



「!」



私がそう口にした途端


楽しそうに笑みを浮かべていた春の顔が、みるみる赤くなった



「‥‥まったく」



照れ隠しなのか、十代の少年みたいな仕種で髪を掻きあげて



「そういう事を言うと、後で泣くハメになるのはみのりだって、これまで散々教えただろう?」



そう口にした春の瞳には、今更抑えるつもりもない欲望の色が浮かんでいた






春の手と、私の手


固く繋がれたそれは、やがて私と春が更に深く繋がるための楔となって



二人の吐息も、愛しさも



どこまでも熱くひそやかに



誰も知らない漆黒の夜に溶けていった――――





―END―

⇒あとがき


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