耳朶を焦がす魔法(2/4)
気が付くと、私は春に抱き締められていた
いつもよりちょっとだけ熱い、大きな手が私の肩を包み込む
トクン、トクン
二人の体が更に密着すると、春の鼓動を間近に意識して、私の心臓は途端に煩く騒ぎ始めた
「あの‥‥は、る?‥‥‥んっ」
私を腕の中に閉じ込めたきり、何も言わない春の長い指が私の顎に触れた
と、思った時には唇を塞がれていた
「あっ‥‥ん‥‥‥はぁ‥‥んんっ」
「みのり‥‥今日一日、ずっとこうしたかった」
わずかに唇を離して、春が囁く
「そんな‥‥だって春、そんな素振り一度も」
「みのり、自分で気付いてなかったのか?」
私の言葉を遮って、春が問い掛ける
「え?」
目を丸くする私の目の前で、春はおおげさに嘆息してみせる
「レコーディング中にも、みのりは何度もそんな目で俺を見ていたからな‥‥‥‥それを全部なかった事に出来るほど、俺も枯れてない」
「そ、そんな目って‥‥」
(私、一体どんな顔してたの!?)
心拍数が一気に跳ね上がって、頬がこれ以上ないくらいに熱くなる
「みのり、俺を見て」
「あ‥‥」
恥ずかしさにあちこち視線をさ迷わせたけれど、すぐに私を射抜くように見つめる春の濡れた瞳に捕まってしまった
「俺も、ずっと会えなくてもどかしかった‥‥‥」
「え?」
春の言葉に、思わず目を見張る
まるで輪郭を確かめるみたいに、ゆっくりと私の頬を滑っていくその指先
「‥‥‥信じられない?」
くすぐったくて私が少しだけ体をよじると、春はスッと目を細めた
「今はこんな傍にいるのに‥‥‥他の奴らの手前、君に触れる事も出来なくて、どうにかなりそうだったよ」
言い終わると同時に、また重ねられる唇
差し入れられた春の舌は、躊躇する事なくすぐに私の口内を蹂躙し始めた
「‥‥‥っ」
歯列を優しくなぞったそのすぐ後で、強引に絡めた舌を強く吸われる
ピチャピチャと、微かに聞こえてくる水音に私の頬はどんどん紅潮していった
(今日の春、何だか‥‥‥)
そんな言葉を、霞み始めた頭の片隅でぼんやり思い浮かべた
けれど、その間にも春から与えられる熱は更に激しくなって‥‥
春の舌に口内を、卑猥な水音に耳を執拗に侵されて、私の頭の芯がクラリと痺れた
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