夏のはじまり(2/4)
今、応接セットのテーブルを挟んで俺と向かい合っているのは、この楽器店の店長だ。
実を言えば、この店は俺と春が初めてバンドを組んだ頃からの馴染みの店だったりもする。
(しっかし、この人も全然変わらないよな〜)
‥‥縦にも横にもでっかくて、いかつい顔のスキンヘッドな店長―通称『親父』。
オマケに眼光鋭く中身も見た目を裏切らない‥‥と来れば、客商売なんて絶対に無理だと誰もが考える。
そして、誰も近寄らない。
けれど実際は、自身がバンドマンだった頃の人脈を活かして、常連客のかなり無理な注文にも二つ返事で応えてくれる『デキル親父』なのだ。
‥‥そう、今回みたいに。
「電話で注文してきたヤツは、これで全部だよな?」
「‥‥そう、ですね。コレなんて、メーカーに問い合わせても品切れと言われたヤツだったんで‥‥本当に助かりました」
「おうよ」
事前に電話して揃えておいてもらった注文品を一通り確認して、俺はホッと肩の力を抜いた。
やがて商品を受け取って、清算も無事に済んだ後。
俺は、次の仕事―歌番組の収録までまだ時間があった事もあって、久しぶりに親父と話し込んでいた。
最近の洋楽や邦楽についての歯に衣着せない批評から、俺や春の昔話まで。
そんな会話がふと途切れた時。
俺のシャツの胸ポケットで、マナーモードにしていた携帯が震え出した。
「‥‥失礼します」
親父がアゴをしゃくって寄越すのに小さく頭を下げて、俺は新着メールを確認する。
(あ‥‥‥!)
みのりちゃん‥‥。
大好きな『彼女』からのメールに、俺の顔も自然とほころぶ。
《夏輝さん、お仕事お疲れ様です。今夜の歌番組で久しぶりに会えるのを楽しみにしてます》
「ホント、律儀だよなぁ‥‥‥‥ん?」
《その、収録前に私の楽屋で二人で会えませんか?‥‥連絡、待ってますね》
‥‥‥‥やられた。
俺は親父の視線を意識しながらも、頬が熱くなるのを止められなかった。
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