折原家のとある日常(2/3)
「みゃう〜ん」
深夜二時。
俺のマンションに、ミイの鳴き声が響き続けている。
そして俺は……完全に疲れ果てていた。
「ミーィー。……そろそろ機嫌直してくれよー。頼むからー」
「みゃ〜う」
俺の言葉が分かっているのかいないのか。
当の本人(本猫?)は、甘えた鳴き声をあげながらマンション中を歩き回ったり、俺にじゃれついてみたり。
「……………ハア……参った。失敗したな〜」
好き勝手に動き回るミイを追いかけるのをあきらめて、キッチンでコーヒーをいれて一息ついた。
(想像はしてたけど……なんであんなに元気なんだよ…………)
いつもは過ぎるくらいに物分かりがいいミイの、唯一の弱点。
『期間限定、底無しの甘えん坊』
その発端は二時間ほど前、日付が変わる頃のコトだった。
この時間になってやっと帰宅できた俺は、リビングのエアコンを点けてソファに深く沈み込む。
「あー、つっかれた……ったく、スケジュール詰めすぎだってんだよ」
正直、コートを脱ぐのも億劫なくらいに体が重い。
しばらくしてリビングが温まると、俺は寝室に行きクローゼットから明日使う予定の『あるモノ』を取り出した。
そしてその一部始終を、俺のベッドの上でまどろんでいたミイはしっかりと見ていたのだ。
俺が手にしている物ー猫用のキャリーバッグを。
来週からライブツアーを控えている俺たちJADEは、あさってには初日である札幌へ移動しなくてはならない。
当然長く家を空けるコトになるので、その間ミイは事務所で猫好きなスタッフに預かってもらう予定になっている。
これまでもそうだったし、ミイもそれなりに順応しているように見えていたのだ………けれど。
いつの頃からか。
ミイの中では、 キャリーバッグ ⇒お出かけ ⇒俺がいない ⇒行っちゃヤダ という具合に変換されたらしい。
かくして、俺がキャリーバッグを持ち出すとミイの『甘えん坊スイッチ』が押されるのだ。
(けど、俺もそろそろ寝ないとまずいしな。さてどうしたモンか……)
キッチンのシンクに寄り掛かって少しぬるくなったコーヒーをすすった。
「あ」
「うにゃーん。みゃー?」
さんざん騒ぎまくったミイがトコトコとリビングに戻ってきた。
俺が追いかけていかなかっから、シビレをきらして様子を見に来たらしい。
「にゃあーん……」
甘えた声で鳴きながらキッチンにやって来て、俺の足に身体を擦り寄せる。
(……イー感じにクールダウンしたか?)
小さな身体を片手で抱き上げると、ミイも目をトロンとさせている。
「なんだお前も眠いのか。じゃあ、今日は一緒に寝ようか?」
「………みー……」
もう半分眠っている様子のミイに目を細めると、空いている方の手で手早くコーヒーカップを洗ってキッチンとリビングの照明を消した。
一人と一匹、たまにてこずらされるけどそれなりに上手くやってると思う。
けれど、夏輝はまだ知らない。
盛大な追いかけっこをした翌朝、さらに盛大なかくれんぼをするはめになるコトを。
すべては、ご主人様大好きなミイの愛情ゆえ。
これもまた、折原家の幸せ………?、な日常のヒトコマ。
→あとがき
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