私の好きなヒト(5/7)
「ふう………」
安全運転が信条の俺が、危うく事故る所だった。
みのりちゃんを乗せてるこの状況でそんな事になったら、騒ぎになるどころの話じゃない。
ちょうどパーキングが前方に見えたので、ウインカーを出して、車を滑り込ませてエンジンを切った。
このまま運転を続けるのは、さすがにちょっと自信がない。
それにしてもみのりちゃん……。
あのスキンヘッドの、ドスを効かせた声と態度で平然と接客までする強面の親父を「イイ人」って………。
…お人よしにも程があるだろう………。
頭を抱えたくなった。
だけど、一人悩む俺に全く気付かないみのりちゃんは、さらに爆弾発言を投下してくれた。
「それに店長さん、夏輝さんや神堂さんの事イロイロお話聞かせてくれたんですよ 」
―ちょっと待って。
「……イロイロ?」
恐る恐る聞いてみる。
「ハイ。高校生の頃、初めてお店に来た時とか……あとデビュー前の事とか…」
華奢な指を折りながら、楽しそうに数え上げてゆくみのりちゃん。
サァーっと血の気が引く音が聞こえた気がした。
「……………………」
(どーいうつもりだよ…。……あんのくそ親父― )
絶対に、絶対に本人には言えないセリフを心の中で叫ぶ。
(何だって俺の知らない所で、よりにもよってみのりちゃんに………。)
「それから……って夏輝さん!……大丈夫ですか?」
ものすごい脱力感に襲われてハンドルに突っ伏した俺に、みのりちゃんが驚いてる。
具合でも悪くなったのかと慌てて、突っ伏したままの俺の左肩に触れたみのりちゃんの右手を、俺は逆に掴みかえした。
そして、そのまま掴んだみのりちゃんの手を引き寄せて、彼女の顔を覗き込んだ。
俺の車の中、運転席と助手席で向かい合う格好になる。
「な、夏輝さん?」
俺の突然の行動に、みのりちゃんは頬を赤らめて俺から目線をそらした。
「……みのりちゃん。幻滅した?」
俺は、そんな彼女の耳元で小さく囁いた。
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