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触れなば落ちん(3/4)


「あの、大久保さん・・・」

困惑したまま店先に戻ると

「ふん、馬子にも衣装だな・・・」

満足そうに、大久保さんが、にやりと笑みを浮かべた

「大久保様、こちらのお着物はいかがいたしましょう?」

「寺田屋の女将に届けておいてくれ」

「承知しました」

「帰るぞ」

「・・・あっ・・・」

大きな手が、私の手をしっかりと捉えて

にこにことご機嫌なご主人に見送られ、店先の暖簾をくぐると

寺田屋に向かって、大久保さんが足を動かし始める


「あ、あの、大久保さんっ」

「なんだ?」

「この着物って・・・」


ぴたりと、大久保さんの足が止まった


「なんだ、不満でもあるのか?」

「ふ、不満なんてあるはず、ありませんっ!」

「ならば、何も問題ないな」

「いや、そういうことじゃなくてっ!」


ゆっくりと振り返った大久保さんの顔を、まともに見ることは出来なくて

彷徨わせた視線を、なんとか大久保さんの胸元に定め


「その・・・こんな高そうな着物を、頂くわけには・・・」


ようやく、それだけを口にする

今、私が着ているのは、さっき目にした綺麗な藤の着物

こんな高い着物、私がもらうわけにもいかないし、それに・・・

龍馬さん達の好意に甘えている私には、お金も払えないよ・・・・


「何かと思えば、相変わらず、つまらんことを」

「・・・え?」


大きなため息と共に降ってきた言葉に、思わず視線を上げると

呆れたように、眉間に皺を寄せる顔が、目に入る


「小娘が、要らぬことをあれこれ考える必要は無い」

「で、でもっ・・・」

「お前が貧相な格好をしているのは、気にいらん」

「・・・・はいっ?」


告げられた言葉の意味を理解しようとするよりも先に

すいっと伸びてきた長い指に、頬をなぞられて


「甲斐性なしの坂本君たちには、任せておけん」


いつもと違う、少し熱のこもったような瞳に捉えられて


「わかったなら、早く、私の元へこい、はづき」


艶のある、低い声で、名を呼ばれ告げられて

瞬きと呼吸が、止まる



そんな私の頭の中に、唐突に浮かんできたのは

さっき着付けてくれた女性が、優しく笑いながら告げた言葉



『最高位と言われる紫の着物を贈らはるなんて、ほんまに大事に想われとるんですなぁ』



いつもいつも、この人は本当に・・・

どれだけ私を翻弄してくれれば、気が済むんだろう・・・

だけど、それを心のどこかで、嬉しいと思ってしまう自分がいるのも、また事実で・・・




返事をすることもできずに、ただ瞳を見つめていると

その瞳が、ふっと細められ


「・・・帰るぞ」


しっかりと私の手を握りしめたまま、大久保さんの足が、薩摩藩邸へと向きを変えた













歩く速さすら私に合わせてくれる貴方の優しさと想いは、素直じゃなさすぎてわかりにくいです





〜終〜

⇒お礼文



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