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今、思ってる事が同じなら(5/6)




見つめる先で、閉ざされていた瞼が、静かに持ち上がってゆく

瞬きもせずに僕を見上げる大きな瞳

その視線が、ゆっくりと、自分の左手へと、向けられた・・・


「半平太さん、これ・・・」

「すっかり遅くなってしまったけれど、はづきの誕生日の贈り物のつもりなんだけどね」

「私、の?」

「ああ、受け取ってくれるかい?」


左手を見つめたまま動きを止めてしまったはづきの姿に、じわじわと不安がこみ上げてくる

もしかして、はづきには、気に入ってもらえなかったのだろうか・・・


「・・・はづき」

「・・・しい・・・」

「え?」


不安に彩られた僕の耳に届いたのは、震える小さな声で

思わず聞き返すと、ゆっくりとした動きで、はづきが顔を上げた


「はづき?」

「嬉しい、です・・・半平太さん、ありがとうございます」


大きな瞳にうっすらと涙を浮かべ、はづきが嬉しそうにふわりと微笑む


「よかった、気に入ってくれたようで、ほっとしたよ」

「半平太さんからもらう物を、気に入らないハズ無いじゃないですかっ!!」


瞳に涙を浮かべたまま、はづきが笑い

自分の左手を、右手でぎゅっと握り締める姿に、愛おしさが募る




僕がはづきに贈ったのは、銀の台座に透明な緑の石が嵌っている、指輪と呼ばれる装飾品

穢れを知らない銀の輝きと、春の若葉を思わせる緑の石が、はづきを思わせて、一目で気に入ったこの指輪

『異国では、祝言を挙げると約束した女性に、指輪を贈る』

あの店の主人が、微笑みながら教えてくれた言葉が、脳裏に蘇る


「大切にします・・・でも、どうして」


指輪を贈ってくれたんですか?・・・問う言葉の中に、微かな期待が見え隠れしていると感じるのは

異国での、指輪を贈る意味をはづきが知っているからだ・・・


そう思ってしまうのは、僕の勝手な思い違いでは無いことを、はづきの口から証明して欲しくて


「異国ではそうだと聞いたんだけど、未来では違うのかい?」


わざと遠まわしに告げると、頬をほんのりと朱に染めたはづきの口が、小さく動き

違いません・・・微かな呟きが、耳を擽る


「大切に、します・・・」


左手薬指に嵌った指輪を、右手で大切そうに包み込み

嬉しそうに微笑むはづき

その姿がどうしようも無い程に愛しくて

華奢な身体をそっと腕の中に閉じ込め、耳元に唇を寄せ・・・・






今、思ってる事が同じなら


来年の春は、互いに指輪を贈りたい



異国での風習だという、この行為の意味も、はづきならきっと知っているはず・・・

掠れた声で、小さく囁くと

触れていなければ聞き取れないほどに小さな「はい」という声が返ってきて

込み上げてくる愛しさを抑えることが出来なず、はづきを抱きしめる腕に、力がこもる・・・









眠りについていた命が芽吹き

温かな日差しが降り注ぐ春は

笑顔のはづきに、よく似合う季節

その季節を迎えたら

僕と祝言を挙げて欲しい・・・・




〜終〜

⇒お礼文


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