世界でいちばん。(11/15)
……そして、ようやく全ての収録が終わり、帰るためJADEの控室へ挨拶に行ったところ、
挨拶もそこそこに、秋羅さんに控室から連れ出され
………今は、秋羅さんが運転する車に乗っていた。
控室からずっと黙ったままの秋羅さんに手を引かれ、
今もまだ、ずっと無言なのでどうにも居心地が悪い。
(やっぱり怒ってるんだよね…)
(どうしたらいいんだろう…)
会話を拒否されてる気がして、どうにも声をかけにくい雰囲気の中
静かな車内には、抑え目にかけられた音楽が私達の間を流れていく。
「ほら、着いたぞ?」
「え?」
助手席で、車窓から光の帯を率いて流れていく夜の街を茫然と見つめているうちに、いつの間にかに到着していたらしく、
気がつくと、既に降りた秋羅さんが、ドアを開け覗きこんでいた。
間近で秋羅さんの顔を見たとたんに視界が滲み
堪えきれず、また涙が溢れ出した。
「っく…秋羅さ…んっ…ごめんなさい」
「ふぅ…なんだ…静かだと思ってたら…まだ、これのこと、気にしてたのか?」
「だって…秋羅さんずっと大切にしてたのにっ ……いつも大事に手入れして使ってたのに…私のせいでっ」
そう言いながら涙を拭っていると
そっと、両手で頬を包まれ上向かされた。
…困ったような…とても柔らかい笑顔。
「……ばか。 ベースを盗んだのも、放り出して傷つけたのも宇棹がやったことで
お前がやったことじゃないだろ? お前が責任感じる必要はないんだって。
……確かに、コイツは大事な相棒だけど…ベースは予備があるし、 店を回れば、この先、いくらでも気に入った物、見付けられるだろうけど…
お前は、どんなに探したって世界でたった一人しかいねえのに、比べられるわけねぇだろ?
俺だけの女をずっと、探して……やっと見つけて。
けど……俺みたいな男には似合わないって諦めてたのに……俺を選んでくれた。 俺にとっちゃ、世界でいちばん大切な女なんだぞ?
だから、もう泣くなって…な?
一ヶ月ぶりに会ったのに、泣いてる顔しか見せてくれねぇつもり?」
至近距離の柔らかい瞳にホッとして、ようやく笑みを浮かべると
ゆっくりと唇が重なり、そっと離れた。
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