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世界でいちばん。(8/15)



「…ぐぅっ」


「お前…俺の女に、随分とふざけた真似してくれたもんだな?」


宇棹の腹を踏みつけたまま睨み付ける。


(秋羅さん……)


普段の温厚な秋羅さんとは全然違う、見たことが無いくらいの冷たい表情と


ゾッとする程に低く冷たい声音に、秋羅さんが本気で怒っているのが分かった。


(…!…そうだベース!)


そっと移動し床に落ちているベースを拾い、ぎゅっと抱き締める。


「くうっ……なんだよ、俺の女?

散々、女とっかえひっかえしてきたくせに

まさかあんた、彼女にだけ本気だとか言わないよな?隠れて浮気してんだろ!どーせ?」



宇棹に言われた言葉の馬鹿馬鹿しさに、思わず可笑しくなり口許が歪む。



「クッ……まぁ、散々言われた通りの事やってきたからな…それについては反論する気もねぇが…

悪いが、みのりのことは本気だ。


本気で失えないって思えるような大事な女が出来ると、他の女に興味が無くなるってのはホントだな…
彼女と付き合いだして他の女には、全く興味が湧かなくなったんでな。


あぁそういえば…お前、ボーカルだっけか?…残念だな。

他のパートなら、手踏み潰してやるとこだけど…さすがに、死んじまうから喉潰すワケにもいかねぇもんな…?

ああ…それとも、こっち使い物にならねぇように潰してやろうか?」


股間の上に、足を移そうとしているのに気づき宇棹が青ざめる


「や、止めてくれ!!もう二度とアンタの女に手ぇだしたりしねえ!や、約束します!!」



「約束ねぇ……次、みのりの周りに現れたら

モチロンただですますつもりねぇけど…

その前に、お前俺のベース、ダメにしてくれたの忘れてんじゃねえだろうな?

……キッチリ請求させて貰うから

どうなるか楽しみにしてろよ?


……大丈夫か?みのり」


宇棹から離れ、ゆっくりと近づいてきてくれた秋羅さんが、心配そうな顔で覗きこんできた。



結局、巻き込んでしまった上、本番直前に大事なベースまで、傷つけられてしまった申し訳なさに胸が締め付けられ、ボロボロと涙が溢れ落ちる。



「…っく、あ、秋羅さんっ…ごめんな…さい!…ベースがっ…」



「バカ……ベースなんか気にすんな。

ちゃんと予備取り寄せてっから心配しなくていい。


そんなことより、大丈夫か?どこもケガしてねぇだろうな?」



ボロボロと溢れ続ける涙を、頬を包むようにしながらそっと拭ってくれる大きな手がとても暖かくて。



「うん…大丈夫だよ」


そう言って頷いてみせると、秋羅さんはぎゅうっと私を抱き締め、


肩口に顔を埋めると深々と溜め息をついた。


「間に合って良かった」

触れているところから、響いてくる秋羅さんの速い鼓動に、秋羅さんが必死で私を探してくれたことが分かり、また申し訳なさに涙が溢れた。

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