世界でいちばん。(5/15)
スタジオに行ってみるとやはり俺のベースは無く、
スタッフも持ち出した人間を見た者は、いないとのことだった。
「まったく…どこのどいつが持ち出しやがったんだか…」
大事な楽器を、本番前に持ち出され苛立ちながらも、
持ち出した相手が分からず、また相手が接触してこないのが気にかかる。
「ったく、俺らにケンカ売るなんて、いい度胸してるバカは一体どこのどいつだよ…
秋羅…ホントに心当たりねぇのか?」
「ねぇよ」
ずっと、何かなかったかと考えているものの、心当たりは全くない。
苛立たしさに、舌打ちをした時、声をかけられた。
「井上さん!」
声がした方を向くと、山田さんが焦った様子で近づいてきた。
「井上さん、失礼ですがみのりがそちらに伺ってないでしょうか?」
「いや…今日は、まだ会ってないけど…何かあったんですか?」
「いえ…もうすぐ、みのりのリハが始まるんですが、挨拶回りに出たまま戻ってないようなので…
そちらに伺っているのだとばかり思ったんですが……
まさか…またか?
……すみませんが、急ぎますので失礼します」
山田さんの『またか』という言葉がひっかかり、
嫌な予感がして思わず呼び止めた
「山田さん…またかって…彼女に何か起きてるんですか?」
無くなったベースと同じタイミングでみのりの姿が見えなくなっていることが、無関係だとは思えず嫌な予感が加速していく。
「それは…」
言うべきか迷っている様子の山田さんを問い詰めようとした時、桃瀬さんが近づいてきた
「徹平ちゃん!迷ってる場合じゃないでしょ!!
みのりちゃんに、メイク室で秋羅くんに相談しに行くように言ったのに、
秋羅くんの所に行ってないなら、どっかでまたアイツに絡まれてるのよ!」
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