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その心に酔わされる(2/7)



秋羅さんと何度か来たことはあるけれど、全くの一人は初めてで


シックなたたずまいと重厚な扉になんとなく気後れしたけれど


思いきってドアを開け中に入った。


「いらっしゃいませ」


開店直後のためか、客のいないゆったりと雰囲気のある静かな空間。


カウンターの中でバーテンダーさんがグラスを磨いている手を止め声をかけてきた。


「いらっしゃいませ、伊沢様、お待ち合わせですか?」


「あ、いえ今日は一人なので」

気を利かせ隣の席に予約席の札を置こうとしてくれた手がゆっくりと向こう側へ戻った。


「そうですか……何に致しましょうか?」


「えっと…カクテルをお願いします」


「かしこまりました」



手際よくカクテルを仕上げていくのを見つめながら
切り出した



「あの……教えて欲しいことがあるんですけど……」

「はい、なんでしょう?」


「えと、秋羅さんにバレンタインのプレゼントにお酒を贈ろうかなって思ってるんですけど…

秋羅さんが一番好きなお酒を教えて頂けませんか?


秋羅さんが『お酒はバーで飲むやつが一番旨い』て言っていたので…」


そう言うとバーテンダーさんは嬉しそうに笑みを浮かべた



「そうですか…そんな風に言って頂けているなんてやっぱり嬉しいですね…


バーでは、水や氷…温度の管理を徹底して


その日のお客様の様子に合わせて一番美味しいと感じて頂けるものを目指しお出ししているので…

同じお酒でもきっと味が違って感じてしまうかも知れません…」



「……そうなんですか…すみません」


(確かに…同じお酒でも…プロが入れたものの方が美味しいに決まっているし…


この落ち着いたバーの空気そのものを秋羅さんは楽しんでいるんだろうな…)



「いいえ…ところで…バレンタインデーの贈り物でしたら…
ウイスキーボンボンなどはいかがですか?」


「実は…最初はウイスキーボンボンにしようかと思って…今日一日かけて探したんですけど



…秋羅さん甘いものが苦手だし…甘いものが苦手でも美味しく食べて貰えるのはどれだろう

…って色々悩んでいたら決められなくなってしまって…


もし…ご存じでしたら…おすすめのウイスキーボンボンを教えて頂けませんか?」

そう尋ねるとバーテンダーさんは出来上がったカクテルのグラスを私の前に置き少し考えるようにして言った。



「…そう……ですね…
あくまで個人的な意見で申し訳ないのですが…


私は毎年この時期に妻からアンソンバーグのリカーアソートを貰うのですが…


チョコレート専門店に比べれば安価ですが

何より世界に名だたる銘柄が数多く楽しめますし


デンマーク王室御用達のチョコレートもビターで

…シュガーコーティングされていないのでお酒の美味しさも十分楽しめますよ…」

.


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