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ここにいる(2/3)


「もぅ〜っっ…」

書いていた紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱に捨てて、大きく息を吐いた。

(秋羅さん…)

閉じられた扉の向こう、眠っているはずの秋羅さんに甘えたくなるけれど、

「ダメダメッ!」

頭をブンブン振ってその考えを追い出して。

(自分でやるって決めたんだから)


もう何度書き直しても神堂さんが書いてくれる曲のようには出来ない。

出来るわけない。そんなことは分かっているけど、少しでも近づけたくて、

これまで2回、神堂さんには見せたけれど、微かに眉をひそめて「違うな…」と言われただけだった。


明日、もう一度見てもらうことになってるんだけど、なにがどう「違う」のか、さっぱり分からなくて…。







「…違う」

3度目の言葉と眉間の皺に私は思わずため息をついた。

「やり直してきます」


神堂さんの手から奪うように用紙を取って、飛び出した。






「春、ちゃんとどこが悪いのかを言ってあげないとはづきちゃんもわからないんじゃ…」

「いいんだ、夏輝」

フォローをしてくれた夏輝の肩をポンッと叩いて


「ちょっと俺出てくるわ」

そういい残して部屋を出た。







「…はぁ〜っ」

逃げるように飛び出したその足で駆け上がった屋上。

その上に広がっていたのはまるで私の心を映すかのようなどんよりとした空で。


手摺りにつかまって下を見下ろしながら大きくため息をついた。


もう何をどうしたら神堂さんを納得させられるのか分からなくて


「秋羅さん…助けてよぉ…っ」


思わず出てしまった言葉に慌てて口を押える。

秋羅さんには甘えないって、そう決めたのに、


「…ふっ…かっこわる・・・」


結局出来ないで、こうして泣き言を言っている自分が情けなくて。





「夏輝さんに、聞いてみようかな・・・」

とにかく、行き詰まったこの状況をなんとかしなくちゃいけないし。



「…それはさすがに聞き捨てならないな」

「???!」


思いがけない声に振り返るとちょっと不機嫌そうな秋羅さんが立っていて、

小さな袋を私に向かって投げた。

綺麗な放物線を描いてすっぽりと私の手の中に入ってきたのは大好きなチョコレートのお菓子で。


「ありがとうございます。は?」



そう言ったときにはもう、秋羅さんは私の目の前に立って、顎に手をかけていた。

クイッと上を向かせられ、冷めたような瞳の彼にゾクッとして目を逸らすと、

「はづき」


何かを含んだような、低い声。


「夏輝に助けてもらうんだ?」

「そ、それは…」

「はづき」

「はい…」

「お前が頑張ってたのはちゃんと分かってる。一人で、ホントに頑張ったな」

「……」


怒っているんだと思っていた彼の手は、いつの間にか私の背中に回っていて、トントンとなだめるように優しく叩かれていた。


「だけどな、はづき。頑張った後は、助けてって言ってもいいんだぞ。」

「……」

「それから、お前が最初にそれを言うのは俺にしろ?」



秋羅さんの言い聞かせるような、優しい声色に、私は張り詰めていたものが切れてしまったのか、俯いたまま、声を殺して泣きだしてしまって。


「お前のそういうところ、嫌いじゃないけどな・・・」


呆れたように笑った秋羅さんが私の頭を自分の胸に押し付けた。



私は、一人で頑張ってるつもりだった。

一人で苦しんで、手を借りないことが一人前の印のような気がしてた。



「ごめんなさい…」


こんなにも私を想ってくれている人が傍にいたのに。

ただ黙って見守ってくれていたんだね・・・。






「はづきが作って、はづきが歌うんだろ?お前にしか出来ない歌を作ればいいんだ。お前は春じゃない」

秋羅さんの言葉にすっかり肩の力が抜けた私は、その日から

夜中、秋羅さんの腕の中を抜け出すことはなくなった。

代わりに、2人で並んで譜面と向かい合って。


秋羅さんが動くたび、服が触れ合うような距離で

仕事モードの彼の真剣な眼差しに。そして、

それがふわっとほどけて柔らかい表情に変わる

その特別な瞬間を存分に味わいながら

今の自分をそのまま曲にのせることにした。



背伸びして、かっこつけて。

一人で突っ走って。

かっこ悪い私だけど。

大好きな人が傍にいてくれる。

いつも支えてくれるあなたを

いつか支えられる人になりたい。




「秋羅さん!」

春が頷いたのを確認した途端、こちらに向けられる笑顔。

「フッ・・・よかったな」


君の、この顔が見たかった。


やり遂げた君の表情はまた一歩大人になったようで


これから何度君のその顔を見ることになるのだろう。


それは楽しみでもあり、

「…負けられないな、俺も」



それでも今は。

「今日は、俺にご褒美くれるよな・・・?」

「・・・///」




「ここにいる」〜fin〜


⇒御礼文



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