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幸せを奏でる瞬間(とき)(3/6)




結局、気の効いたプレゼントもデートの場所も思いつかないままに今日を迎えてしまった。


神堂さんも私も夕方まで仕事で、待ち合わせのあと二人で買い物をして神堂さんのマンションに帰ってきた。


そして目の前のテーブルに並んだ少しの手料理と買ってきた小さなケーキ。





「すみません…ちゃんとお祝いできなくて…」


時間がなくてバタバタと用意した料理は、普段作るものよりは洒落たものにしたけれど、お祝いの席には地味な気がした。



"大切なのは気持ちでしょ?"



夏輝さんに言われてそれでいいんだって思ったけど、今この瞬間にはやっぱり何か足りなように思えて胸が苦しくなる。


(せめて何かプレゼントを買えればよかったんだけどな…)


しゅんとする私の頬に神堂さんの大きな手が触れた。


「…そんなことはない」


フッと柔らかく笑った神堂さんの表情にドキッとして頬が熱くなっていく。


「でも…やっぱり…」


ちゃんとお祝いしたかった…


そう続けようとした私の言葉は唇にそっと当てられた神堂さんの指に遮られた。



「キミが祝ってくれる、それだけで充分…」



言葉と同時に神堂さんの手が肩を掴んでぐっと引き寄せる。


私はあっという間に力強い腕の中に閉じ込められていた。



「俺は…キミがいればそれだけでいいんだ…」



大きな胸に私を引き寄せて頭をぽんぽんっと撫でる大きな手。


その手に込められた優しさに頑なになりかけていた心が解けていく。



「…神堂さん…お誕生日おめでとうございます……」



胸に預けていた紅く染まる顔をあげて、心を込めてお祝いの言葉を口にする。


目が合うとすっと視線を逸らして少し照れたように笑った神堂さんの顔がなんだか可愛く見えて、その表情にきゅんっと小さな音を立てて幸せな気分が胸いっぱいに広がった。








食事を終えてキッチンで後片付けをしている私を、カウンターキッチンの向こう側に座った神堂さんが眺めている。


見られているのはなんだか恥ずかしくて、ずっと下を向いたままカチャカチャと食器を片付けていた。


「…今度一緒に買い物に行こう」


「え?…あ、はい」


突然かけられた言葉に"何を?何処に?"と思ったけれど、なんとなく聞けないまま神堂さんのほうを見ながら返事を返した。


「…食器や雑貨…ここで、キミと過ごす為に必要なものを一緒に選ぼう」




私が訪れたのは今回が2度目のこの部屋には、最低限の調理器具と少しの食器しかいない。


誰にも邪魔されずに仕事がしたいときにだけ使っていたというこの部屋を、『二人でゆっくり過ごすための部屋にしよう』と神堂さんは言ってくれた。


生活感の薄い元仕事部屋は神堂さんらしいなと思うけれど、どこか寂しくて冷たい感じがする。


だから…二人で一緒に過ごすこの部屋がもっと暖かな場所になればいいと、そんな場所にしたいと少しだけ私の中の欲が顔を覗かせた。


(…こんなこと考えて…私って意外とずうずうしいよね……)


頭を過ぎった戯言に苦笑しながら珈琲を淹れると、香ばしい香りが部屋を満たしていく。



「買い物、楽しみにしてますね」


そう言って神堂さんの前にマグカップを差し出した。



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