在り続ける幸福(1/5)
暑さの残っていた長月が過ぎて、神無月も半ばになると夕方はかなり冷え込んでくる
夕方、風通しの為に開けておいた障子を閉めようとすると、四匹の赤とんぼがすーっと部屋に飛び込んで来た
「あ、赤とんぼ! ‥‥そっか、もう秋本番なんだよね」
赤い小さな体が、一緒になったり離れたりしながら、くるくるくると部屋の中を飛び回る
「ふふ、兄弟なのかな? 仲良さそうでいいなあ」
本当は部屋を冷やさないように、急いで障子を閉めないといけないんだけど
ついついトンボ達に見とれてしまった私は、やがてある事に気が付いた
(あれ、あの子は皆より少し体が小さいみたい)
他の三匹よりちょっと遅れて、だけど皆に負けないように一番に羽を動かしている、その姿はまるで
「‥‥‥慎ちゃん?」
無意識に声に出してしまってから、ハッとして辺りを見渡す
「あ、そっか‥‥‥今日は皆出かけちゃってて、誰もいないんだっけ」
安心したら思わず笑ってしまった
慎ちゃん―――中岡慎太郎さんは、確かに見た目はちょーっとだけ人より幼いかもしれない
だけど、実際の慎ちゃんはとても大きな度量と見識を持った、凄く頼りになる人だって私も龍馬さん達もちゃんと分かってる
(それでも本人が気にしてるんだから、言わないに越した事はないよね)
やがて入って来た時と同じ様に、また一斉に外へ飛び出していくトンボ達を手を振って見送る
「あ、そういえば‥‥‥」
その何気ない仕種で、私の頭の中にフッと今朝の慎ちゃんとの会話が思い浮かんだ
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