セーラー服的恋愛論(1/5)
いつの間にか季節は巡り、寺田屋の庭の木々もすっかり秋の装いにその姿を変えていた
ピイ――ッ
遥か上空を群れなして飛んでいく鳥達の鳴き声に、書物を繰っていた手が止まる
「ほう、これはなかなか趣深い‥‥」
自室の窓から見上げた空はどこまでも高く澄んでいて、僕の口からは感嘆のため息が漏れた
だがすぐに、それも自嘲の笑みに変わる
(ふっ、僕も現金だな‥‥秋の空など、これまでにも数え切れぬほど見てきたというのに)
これまでの秋になくて、今年の秋にあるもの
それは―――
改めて己に問い掛けるまでもない
僕は一人の少女の屈託ない笑顔を思い浮かべて、静かに微笑んだ
『大義の為に我が身を投げ打つ覚悟であるこの自分が、あろう事か一人の女子に心奪われるなど』
未だに、そんな思いが胸を掠める時もある
だが、あの日突然僕の前に現れた君の笑顔が
その存在が
僕の心をこんなにも引き付けてやまないのだ
そう、それはまるで‥‥‥
「――さん、武市さんってば! 聞こえてますかー?」
「‥‥‥え?」
自分に呼び掛ける声に我に還って、空を見上げていた視線を徐々に下げていく
すると
「なっ‥‥‥はづきさんっ!?」
視線の先、僕の部屋の縁側で『せぇらぁふく』姿のはづきさんが、こちらに手を振りながら微笑んでいた
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