たとえば愛を語るなら(1/3)
文月も半ばを過ぎたある日
私は龍馬さんや他の皆と一緒に海辺の町に来ていた
もちろん、ただ遊びに来た訳じゃない
詳しくは教えてもらえなかったけど
何でも『大事な会合の下準備をする為』に監視の目が厳しい京の町を避けたかった‥‥って事らしい
***
昼の暑さもようやく落ち着いて、開け放たれた窓から吹き込んでくる風からはかすかに潮の香りがする
私は他の皆より一足早く宿に帰って来た龍馬さんの為にお茶の支度をしていた
「海からこの宿までちょっと距離があるのに、ずいぶん潮の香りがするんですね」
「まあ風向きにも寄るがのう‥‥‥そうじゃ!」
と、窓際に立って外の景色を眺めながら団扇を使っていた龍馬さんがくるんと私の方に向き直る
「はづきさん、今からちくと海に行ってみんか?」
「龍馬さん? え、いいんですか!?」
私がぴたっと手を止めて顔を上げると、それを見た龍馬さんがにししと笑う
「おう、ワシらの用向きもようやく一段落つきそうじゃからの‥‥それにはづきさんもずっと留守番ばかりで退屈させてしもうたしな」
「そんな事‥‥‥っ!?」
“ないですよ“
そう続けようとした私の手を龍馬さんがガシッと掴む
「いや、ワシとはづきさんの間に遠慮は無用じゃ! ようし、そうと決まれば早速‥‥」
「り、龍馬さん!?」
言うが早いか、今にも部屋を飛び出しかねない勢いで龍馬さんに腕を引っ張られて、私も慌てて立ち上がった
(っていうか龍馬さんてば‥‥)
龍馬さんの大きな手でぎゅっと握られた自分の手を意識して、私の頬が一気に熱くなる
――――恥ずかしくてこっそり見上げた龍馬さんの笑顔は、私と同じくらい真っ赤だった
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