恋ひぞ積もりて(1/4)
縁側の向こうに広がる庭は、芽吹きの季節を迎えて日に日に緑がその鮮やかさを増している。
(あ、かわいい‥‥)
そこで雀のつがいが仲睦まじそうに遊んでいるのが微笑ましくて、私は作業していた手を止めて一息ついた。
半平太さんと祝言を挙げる事が正式に決まってから数日後。
のどかな午後の日差しが差し込む部屋で、私は一人お裁縫に励んでいる。
ミシンなんて便利な物はないから、一針ずつひたすら自分の手で縫っていくしかない手間のかかる作業だけど。
それでも。
半平太さんと生きていく決断をした今の私には、とても幸せな時間だった。
「えっとここをこうして‥‥うん、きれいに出来た!」
縫い目の確認をしていた私は、満足の笑みを浮かべて生地をそっと畳の上に置く。
それから糸の処理をして、しわがよらないよう注意しながら生地を畳んだ。
「これでよしっと‥‥ふふ、だいぶ形になってきたなあ」
私が着物を自分の手で縫うなんてもちろん初めての事で。
滞在している旅館の女将に教わりながらの遅々とした作業だったが、こうして成果が目に見えて来るとものすごく嬉しい。
(‥‥最初はどうなる事かと思ったけど、この分なら思ってたより上手に出来るかも?)
つい調子にのって、そんな事まで考えてしまう。
私がさっきまで一生懸命に針を指していたのは濃青の生地。
他でもない、半平太さんに一番似合う色だ。
まだまだ先は長いけど。
「半平太さん、喜んでくれるかな?」
「僕が何だって?」
「‥‥‥‥‥‥え?」
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