巡り逢う時のなかで(1/3)
外出先から寺田屋に戻って数刻
夕刻から降り出した雨はますますその激しさを増している
夕餉を終えた僕は、自室の窓辺に佇んでその雨音に耳を傾けていた
「未だ降りやまぬ、か」
闇に沈む庭を眺めながら一人呟く
はづきさんと庭で剣の早朝稽古を始めてからしばらく経つが、この雨の降りようでは明日の稽古は難しいかもしれない
「‥‥‥‥‥‥」
だから、何だというのだ?
『天候が優れないのだから仕方ない』
それだけの事なのに
らしくなく浮足立っている己を自覚して自嘲する
剣の道を極めんとする稽古なら話は別だが、僕達のそれは――
埒のあかない思考を繰り返す己に呆れながら、半ば眉を寄せて腕を組み‥‥やがて小さく嘆息した
(これはもう、潔く認めねばなるまい)
どうやら自分でも気づかぬうちに、僕は彼女と過ごす時間を心待ちにするようになっていたらしい
この武市半平太ともあろう者が、だ
端から見れば、さぞかし滑稽に映るだろう
権力も、腕力もない
だが、彼女は――――その笑顔と物おじしない性格だけで、いとも簡単に僕の心を捕らえてしまったのだ
『はづきさんを本来在るべき場所に帰してやりたい』
その言葉に偽りはない
‥‥‥しかしそれは
「本当に、残念な事だな」
僕の偽らざる本心は降りしきる雨の中‥‥‥‥‥ひっそりと闇に溶けて、聞き咎める者はいなかった
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