Bakumatsu | ナノ


愛しくて愛したくて(1/2)




庭から春の風がそよと舞い込む部屋の中



吐息すら触れ合う近さで絡み合う視線に耐え切れず、やがて小娘は恥ずかしそうに目を伏せた


「どうした?」


「‥‥‥‥」


そのまま私の問い掛けにも答えず、ふいと顔を背けてしまう



だが


そうする事によって、逆にほんのり紅く染まった目許があらわになった



その表情はいつもの元気な小娘とは違い、なまめかしいほどの艶やかさを帯びていて



「――――っ」


一瞬、息が詰まる




『今すぐ腕の中に閉じ込めてしまいたい』



そんな強い衝動に支配されそうになるのを、両の手を力一杯握りしめてどうにか堪えた



(‥‥‥‥まったく)



気づかれぬように嘆息した後で、ひとりごちる



「本当に、世の中は分からんな」


「え?」


聞き取れなかったらしい小娘が顔を上げる


「こちらの話だ」


キョトンとした表情のその頬に、殊更ゆっくり指を滑らせた



「大久保さん?な、何するんですか‥‥‥!?」


狼狽した小娘が見せる仕種は、いっそ幼くも見えて




(‥‥‥よもやこの私が、色気も発育も未熟な小娘にここまで執着するとはな)



これまでの自分は常に藩の為、ひいてはこの国の未来の為にある事を優先してきた



だが、今私の指先に触れるこの温もりはどうだ?



攘夷も倒幕もなく、いつも己の心のままに笑い、怒り、泣く




いつしか、そんな小娘の存在を心地好く思っている自分がいた



感化されたつもりはない



(だが、これもまた悪くはない‥‥‥‥な)




口の端を上げて、小娘の目を覗き込む



「小娘‥‥お前はこの私に睦事を囁いて欲しいのだろう?」


「え?睦事って‥‥‥大久保さん!?」


むきになって顔を上げた小娘は、今度は臆する事なく私の目をまっすぐに見返してきた


まるでこの私に張り合うように、挑むように



「ふっ、なかなか愛い反応をするではないか」



「‥‥‥そんな、事っ」


「はづき」



私の意味深な笑みに、小娘の頬が朱に染まる


反射的に体を引こうとしたが、小娘の細いあごを捕らえている私の指がそれを許すはずもない



「大久保さん!?」


「いろはも分からぬ小娘にしては上出来だ」


柔らかな前髪をさらりと掻きあげて、額に唇を落とした


「はづき」


もう一度、小娘の耳元で名を囁く


「あっ‥‥」



庭に咲く満開の桜より紅い唇から漏れた呟きには、明らかな熱が込められていて





坂本くん達との会合が終わった後のわずかな‥‥秘めやかな時


清しい春風が吹き抜ける部屋で


私は小娘の熱を共に味わうべく、その華奢な体を抱き寄せた――――――





―終―

⇒あとがき

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