今だけ、もう少しだけ(1/3)
船を降りてから数刻
慎ちゃんに勧められた『ほとがら』を撮り終えた私達は、近江屋へ向かって京の町を歩いていた
久しぶりに見る懐かしい町並みに目を奪われていると
(あれ?)
私の少し前を歩いていた半平太さんが、いつの間にか土手沿いの道に繋がる路地へと入って行くのに気が付いた
慌てて追いかけた私が一歩路地に入ると、途端に往来の喧騒から切り離される
ここには、私達以外の人の気配はほとんど感じられなくて
「‥‥‥‥‥‥」
ちょっとだけ心細くなった私は、先に行ってしまう大好きな人の背中に呼び掛けた
「半平太さん!」
「うん?はづき、どうかしたのかい?」
私の声に足を止めて振り返った半平太さんは、不思議そうな顔をしている
(えっと‥‥半平太さん、もしかして道を間違えてる事に気づいてないのかな?)
そう思いながらパタパタと駆け寄った私は、半平太さんの腕に軽く触れながら口を開いた
「そっちの‥‥土手の方の道だと、近江屋に行くにはちょっと遠回りになっちゃいますよ?」
私がそう言うと、半平太さんは得心したように頷く
「そうだね」
「そうだねって‥‥」
今度は、私が首を傾げる番だった
(気付いてなかったわけじゃないんだ‥‥でも、だったらどうしてわざわざ遠回りな道を?)
むーん、と考え込む私を見て半平太さんがクスクス笑う
「はづきは本当に、考えてる事が分かりやすいね」
「え?‥‥‥ちょ、半平太さん!?突然何するんですか!」
言葉と同時に、指先でチョンと眉間に触れられて、驚いた私はとっさに2、3歩後じさった
「はづき?」
本当に、何気なく突ついてみただけだったらしい半平太さんは、私の反応に目を丸くしている
そして頬を膨らませて両手の平で眉間を押さえる私と、互いに無言で数秒、見つめ合った
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