傍らにある永遠(1/3)
私が小五郎さんと一緒に、この時代で生きていく決心をしてからしばらく経ったある日。
まだ日が昇ったばかりの、朝早い時間。
長州藩邸の炊事場で、私と小五郎さんは二人で朝餉の準備をしていた。
くるくる、くるくる‥‥。
小五郎さんの手の中で、大根がきれいに桂剥きされていく。
他にも人参だとか牛蒡だとか‥‥‥‥いろんな食材がどんどん下拵えされていった。
(やっぱりいつ見てもすごいなあ‥‥)
私もずっとお母さんのお手伝いをしてきたから、お料理には少しだけ自信があったんだけど。
小五郎さんの鮮やかな腕前とは、まるで比較にならない。
私は作業する手を止めて、彼の包丁捌きにすっかり見とれてしまっていた。
その時。
「はづきさんもやってみるかい?」
「‥‥‥‥え?」
不意に名前を呼ばれて、小五郎さんの手元ばかり見ていた私が顔を上げると。
朝焼けの明るい日差しを浴びてにっこり微笑む彼と目が合った。
「いや、はづきさんがずっと僕の方ばかり見ているから」
お望みなら、手取り足取り教えてあげるよ?
まな板の上に包丁を置いた小五郎さんが両手で私に向かっておいで、と手招きする。
その仕草は、どこか小さい子供をあやすそれにも見えて。
「‥‥‥そんな、事」
どうしようもない恥ずかしさに、頬が一気に熱くなるのが分かった。
「あ、あの‥‥‥私‥は‥‥」
真っ赤な顔で目を泳がせる私を見て、小五郎さんが吹き出す。
「まあそれは言葉のあやだけれどね‥‥‥‥もちろん料理以外の事でも構わないんだよ? ただ僕がはづきさんの喜ぶ顔を見たいだけなんだから」
『だから、そういう事をさらりと言わないで下さい』
そう言いたいのに。
小五郎さんの視線を意識しすぎて、上手く言葉が出て来てくれない。
「はづきさん? 顔が赤いようだけど‥‥」
「お、お釜の湯気のせいですっ!」
一息で言い切ると、私は後ろを向いて小五郎さんに気づかれないようにそっと息を吐いた。
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