月のみぞ知る(1/3)
今宵、どうしても寝付けなかった僕は縁側の障子を細く開けて月を眺めていた。
「‥‥‥‥ん?」
だが、しばらくして隣の部屋から微かに衣擦れの音がしている事に気づいて首をかしげる。
僕の部屋の隣は、はづきさんの部屋だ。
はづきさんがいるのだから、物音がしても当たり前ではあるのだが。
しかし、もうすぐ丑三つ時を迎えるこんな夜更けに心身共に健やかな彼女が起きているとは思い難かった。
「‥‥‥‥‥‥」
気にはなったが、この時分ではさすがに部屋を訪問して確認する訳にもいかない。
さて、どうしたものか。
僕がつらつらと思案していると。
今度は、縁側に面した障子を開ける音が聞こえてきた。
(‥‥はづきさん、やはり起きているのか?)
細く開けている障子の隙間からそっと縁側を見遣ると、彼女が静かに部屋から出て来るのが見える。
寝巻きにしている着物一枚だけのその姿は、いつも元気なはづきさんとは違ってどこか寂しそうだった。
そして。
「‥‥‥‥‥カナちゃん」
「っ!」
僕と同じように天空の月を見上げた彼女の小さな呟きを耳にした、その瞬間。
僕の体は勝手に動いていた。
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