在り続ける幸福(2/5)
今日は皆がそれぞれ外出する予定になっていて、私は最後に出掛ける慎ちゃんを見送りに玄関に降りて来ていた
「姉さん、本当に一人で大丈夫っスか?」
すっかり支度を整えた慎ちゃんが心配そうに言うのに、笑顔で返す
「やだなあ慎ちゃんてば‥‥‥私は小さい子供じゃないんだからね?」
「あ、いや‥‥すみません、決してそんなつもりじゃ! ただ最近は新撰組の見回りも厳しくなって来てるから、それで俺‥‥‥っ」
「ふふ、分かってるよ」
私はにっこり笑って、なおも言い募ろうとする慎ちゃんの肩をぽん、と叩いた
「ほら、慎ちゃんも早く行かないといけないんでしょ?」
「それはそうなんスけど‥‥‥そうだ、姉さん!」
「は、はいっ?」
パッと真剣な顔をした慎ちゃんに不意打ちで真っ直ぐ見つめられて、私の心拍数が跳ね上がる
『慎ちゃんが好き』
そう自覚してから、まだそんなに時間は経っていないのに
慎ちゃんは―――
出会った時、自分が何処にいるのか分からなくて不安だらけだった私の傍にいてくれた
右も左も分からない世界で、『この人の傍にいれば大丈夫』って思わせてくれた人だから
私の中で、そんな慎ちゃんへの思いは今この瞬間にもどんどん大きくなっているから
――――って、今はそれどころじゃなくて!
ブンブンと首を振って、強制的に気持ちを切り替える
「‥‥‥‥‥‥」
慎ちゃんは私の事を呼んだきり、何処か思い詰めたような顔をしていた
(どうしよう、めちゃくちゃ気まずいんだけど‥‥‥な、何か話題になるような事なかったっけ?)
と、半ばパニックになりかけた時
「あ、いや‥‥‥‥その、大した事じゃないんで! それじゃ姉さんも、くれぐれも一人で町に出たりしないで下さいね!」
「あ、慎ちゃん!?」
「それじゃ行ってくるっス!」
驚いて目を丸くした私が呆気に取られているうちに、歩き出した慎ちゃんの背中は人波に紛れて見えなくなってしまった
「‥‥‥行っちゃった」
.
[←] [→] [back to top]
|