セーラー服的恋愛論(3/5)
「武市さん、今日はずっとお部屋に篭ったきりですけど、もしかして凄くお忙しいですか?」
「え?」
感情豊かな大きな瞳が、どこか不安気に僕を見つめる
―――忙しいも何も、単にはづきさんを挟んで龍馬達とやり合う気になれなかっただけなのだが
だが、まさかそれを正直に本人に言える筈もない
(どうやら僕の口が足りなかったせいで、はづきさんに要らぬ気遣いをさせてしまったらしいな)
チクリ、と胸の裡に目に見えない棘が突き刺さる
「ぼ、僕の事はいいから‥‥それより、君も何か用があったんじゃないのかい?」
多少の後ろめたさも手伝って僕が促すと、はづきさんは途端にパッと顔を輝かせた
「はいっ! 私、女将さんとの約束が終わった後に庭の落ち葉を掃除していたんですけど、龍馬さんの提案でせっかくだから皆で焼き芋をしようって事になったんです!」
「‥‥‥‥皆で、焼き芋」
「はいっ! 私、焼き芋するのって実は初めてなんです!」
にこにこ、にこにこ
「初めて、なのかい?」
「はいっ! 龍馬さん達も頬っぺたが落ちそうになるくらい美味しいって言ってたし、私も今から凄く楽しみで‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
ああ、まただ
―――いや、はづきさんには何の非もない
だが、気付いてしまった
最近の僕の胸のもやもやは、ただ僕がはづきさんの口が僕以外の男の名を紡ぐのが嫌なだけだったのだ
「何という様だ‥‥」
これまでびくともしなかった大義への覚悟さえ揺さぶってしまうこの思い
それは紛れも無い、はづきさんへの秘めた熱
僕自身をも焦がしかねないその熱さを充分に分かっているからこそ、僕は君に憎まれ口を利いてしまうんだ
ほら、こんな風に
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