セーラー服的恋愛論(2/5)
「はづきさん!?」
「あ、ふふ‥‥」
目が合うと、自分が今まさに思い描いていた通りの笑顔で微笑まれて、一瞬幻と錯覚しそうになった
「もう、武市さんてば全然気付いてくれないんですもん!」
「いや、そんな事は‥‥っ!?」
改めて、満面の笑みを浮かべるその姿をまじまじと見る
履物を履いたままなのだろう、彼女は縁側に片膝をついて僕の方に身を乗り出していた
それはつまり、はづきさんの『せぇらぁふく』の『すかあと』から彼女の白い足があらわになっているという事で‥‥
「――――」
「武市さん?」
「!? い、いやっ! 僕は疚しい事など何もっ‥‥」
「疚しい、ですか?」
無意識にニヤケる口許を手で隠し、あらぬ方を見遣る僕にはづきさんは不思議そうにちょこんと首を傾げる
(ああ、はづきさん‥‥‥後生だからそこだけを復唱するのは勘弁してくれないだろうか‥‥)
だがそんな動転する心中とは裏腹に、僕の目は未だはづきさん一人を捉えていた
『天真爛漫、口の悪い者に言わせれば鈍感』
僕は今、その言葉の意味を痛感している
年頃の娘にしては些か幼い彼女の仕種が、更にはづきさんの白い足を‥‥‥‥だから、何を考えているんだ僕はっ!
最近はずっと着物で過ごしていたはづきさんだが、今日は朝餉の後で女将に着物の手入れの仕方を教わる約束をしていたらしい
「その準備をするのに箪笥の中を整理していたら、久しぶりにこれも着てみたくなって」
久方ぶり―――それこそ出会った頃以来ともなるせぇらぁ服姿に、朝餉の席では龍馬や中岡、あろう事か以蔵までもが目を奪われていた
「おお、やはり元気なはづきさんにはせぇらぁ服がよう似合うちょる!」
「あの頃の姉さんを思い出すッスね!」
「ふん、悪くはないな」
「‥‥‥‥‥」
『二日酔い』とやらでもないのに何故か胸のあたりがもやもやしてきたが、もちろん顔に出すような事はしない
(龍馬達を前にして、はづきさんの事で隙など見せられるか‥‥‥!)
その一心で、箸の進まぬ朝餉の席をどうにかやり過ごし
僕は『すかあと』の裾を翻しながら、なにくれと世話を焼いてくれるはづきさんが龍馬達と賑やかにやり取りしているのを聞きながら、早々に部屋を後にしたのだった
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