しあわせになろうよ(2/6)
お盆が終わってから数日後
京の町では、未だにうだるような夏の暑さが続いていた
まだ太陽が昇りきっていない、朝早い時間
部屋の障子を庭に向けて大きく開け放つと、吹き込んで来る風で縁側に吊してある風鈴が時折チリリと揺れる
「よいしょっと‥‥‥こんな感じかな?」
その涼やかな音を聞きながら呟いて
大きな姿見の前でくるりと回ると、後ろに手を伸ばして帯の結び目に触れる
「‥‥うん、これでよしっ!」
たっぷり時間をかけてチェックしてから、私はようやく満足の笑みを浮かべた
◇◆◇◆◇
八月二十日
今日は私の大好きな晋作さんがこの世に生を受けた、特別な日
そして――――実は今日は、私の誕生日でもあるのだ
半月ほど前のある夜
二人で晋作さんの子供時代の話をしていた時にそれが分かって、私達は揃って目を丸くした
『何っ!? 本当にはづきもこの日の生まれなのか?』
『う、うん‥‥一番暑い時のお産だったから、色々大変だったって私のお母さんも言ってたもん』
『そうか‥‥‥‥そうだったのか!』
『きゃっ!?』
突然肩を抱き寄せられて、私は真剣な目をした晋作さんとごく至近距離で見つめ合う形になる
(え、そんなっ!? まだ心の準備が‥‥‥!)
しかし、一人動揺する私に晋作さんは余裕の表情で笑ってみせた
「やっぱり俺の目に狂いはなかったって事だな! はづき、俺達は最初から、こうして出会って結ばれる運命だったんだ!」
『う、運命ですか?』
『そうだ! もちろん、俺は初めてはづきに会った時からそうだと分かっていたがな!』
『‥‥‥‥‥』
確かに、好きな人と誕生日が同じだなんて偶然は、そうそうあるものじゃないけど
それでも、密着したこの態勢で晋作さんがあまりにも自信たっぷりに言うものだから、私はもう真っ赤な顔で俯くしかない
『も、もう‥‥‥晋作さんてば、たまに不意打ちで格好いい事言うんだもん‥‥‥ずるいよ』
『何だとっ!?』
.
[←] [→] [back to top]
|