たとえば愛を語るなら(2/3)
私達がやって来たのは、船着き場から大きな岩場を隔てた浜辺
目の前に広がるのは、太陽光を反射して輝く仰い海面と、繰り返し砂浜に打ち寄せる白い波だけ
まだ明るいのに、遠く―――岩場の向こうから地元の子供達がはしゃぐ声が聞こえてくるくらいで、私達の周囲には誰の姿もなかった
ふと気が付くと
龍馬さんもさっきまでの勢いはすっかり消え失せて、静かに海を見つめている
「ほんにいつ見ても、海は大きいのう」
「龍馬さん?」
「じゃが、世界はこの海よりもっともっと大きいときとる‥‥それでもワシは負ける訳にはいかんのじゃ」
(あ‥‥‥)
ここに来るまでずっと繋いだままだった手
その龍馬さんの手にぎゅっと力が篭るのが分かって‥‥‥私は空いている方の手をそっと重ねて目を閉じる
この時代で私に何が出来るかなんて私にも分からないけど、それでも
『龍馬さんの隣にいたい』
『私も龍馬さんと同じ未来が見たい』
そう、思った
それからしばらくして
「わっ、冷たい!」
私は裸足になって、波打ち際で寄せては返す波に足を浸して遊んでいた
「これはづきさん、あんまりはしゃぐと危ないぜよ」
「大丈夫ですよー‥‥って、きゃっ!?」
龍馬さんがのんびり言うのに、笑顔で振り向く―――と同時に砂に足を取られてよろけてしまう
「はづきさん!」
‥‥‥‥転ぶ!
思わずぎゅっと目をつぶった私の体は、けれど予想した衝撃がくる前に、逞しい腕に抱き留められた
「はづきさん、大丈夫かえ?」
「え? あ‥‥きゃああっ」
ゆっくり目を開けて
自分が龍馬さんの胸にぴったり密着する格好になっているのに気づいた私は、夢中で手足をばたつかせたけれど
「ははは、ほんにはづきさんは『はちきん』じゃのう」
「‥‥‥‥‥っ」
龍馬さんは楽しそうに笑うばかりで、腕が緩む気配もない
やがて力で抵抗するのを諦めた私は、龍馬さんの顔輪をきっと見上げた
「お?」
「‥‥今日の龍馬さん、いつもより意地悪です」
「ふむ、しかしそれは仕方のない事じゃ」
「え?」
きょとんとする私の視線の先で、龍馬さんは満面の笑顔になる
「ほれ、よく言うじゃろう?『好きな相手ほど虐めたい』と」
「な、龍馬さっ‥‥‥」
その後に続くはずだった言葉は、龍馬さんの唇に掻き消された
そしてこれ以上ないくらい真っ赤になって固まった私を、龍馬さんはもう一度強く‥‥‥強く抱きしめる
「この手も、もう離してなんかやらん」
いつの間にか、蒼かった海は夕焼けの色に赤く染まっていた―――――
―終―
⇒あとがき
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