傍らにある永遠(2/3)
(ホントにもう‥‥)
最近の小五郎さんは、その優しさも甘い言葉も全部まっすぐに伝えてくれる。
というか、そのまっすぐさに私が照れるのを楽しんでいる節さえあって。
いつも私一人がドキドキしているみたいで‥‥‥‥ちょっとだけ悔しい。
だけど高杉さんが療養生活を送るようになって以来、前にも増して忙しくなった小五郎さんが、ここでは肩の力を抜いて本当に楽しんでいるのが分かるから。
そんな大事な場所にこうして一緒にいられる事は、ものすごく嬉しい。
それは、いいんだけど。
「‥‥‥‥‥‥」
私は顔を巡らせて、くるりと広い炊事場の中を見渡す。
(最近、私と小五郎さんが朝餉を作りに来た日に限って他の女中さんとか誰もいなくなってるのは気のせい、じゃないよね‥‥?)
私が気がついたのはごく最近だけど、思い返してみると他にも『あれ?』と思うような事が次から次へと出てくるから不思議だ。
『まさか小五郎さんが?』
そう勘ぐったりもしたけれど。
(‥‥‥だけど、いくら何でもそこまでは‥‥ねえ?)
心の中で、そう呟いた時。
「そんなに気になる?」
「え?」
いつの間にかすぐ傍に来ていた小五郎さんが私の耳元で囁く。
「‥‥‥‥きゃっ!」
同時に大きな手で肩をグイっと抱き寄せられて、気づいた時には私は小五郎さんの腕の中だった。。
「こ、小五郎さん?」
突然密着した大好きな人の温もりに、私の心臓がひときわ大きく高鳴る。
「はづき」
「え?」
しばらく無言で抱き合ってから、私達は少しだけ体を離して、至近距離で見つめ合った。
「きっと‥‥いや、はづきと出会う前の僕だったら『人払い』なんて非効率的な事は絶対にしなかっただろうね」
「‥‥‥‥やっぱり」
私の呟きに小五郎さんが失笑する。
けれどすぐに真面目な顔になって、私の顔を覗き込んで来た。
「だけど、ね‥‥」
「今の僕はその非効率的な事が楽しくて仕方ないんだ」
その言葉と同時に、小五郎さんの唇が私の額に触れる。
「はづきと出会えて、そして今こうして一緒にいられて‥‥‥‥本当に良かった」
「そ、それなら私‥‥だって‥‥‥っ!」
私が紡ごうとした言葉は、そっと重なった二人の吐息に溶けて消えた。
すっかりふっきれた小五郎さんによって人払いされたこの場所で。
抱き合う私達の周りでは、優しい朝の空気が静かにそよいでいた。
―終―
⇒あとがき .
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