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幸せが、下りてくる(1/2)



忙しかった一週間が終わって、待ちに待った土曜日の朝



「ん‥‥‥もう朝?」



寝ぼけ眼で、シーツに指先を滑らせる―――と、不意にその指先をきゅっと誰かに握られた



(あれ?)



と思うと同時に、耳元でクスクスと楽しそうな笑い声がして



「‥‥‥部長?」



「はづき? 何だ、その顔はまだ寝ぼけてるな?」



ベッドに片肘をついて私の方に身を乗り出していた部長が、ふっと優しく微笑んだ



「おはよう、はづき」



「あ、おはようござ‥‥‥んっ」



挨拶の言葉は、言い終わる前に少しだけ性急な部長のキスに掻き消されてしまう



「――――」



突然のキスに段々息が苦しくなってきて、私は部長の肩に置いた手にぐっと力を込めた



「‥‥‥もう、部長ってば!!」



「おい?」



案外あっけなく離れた唇をちょっとだけ物足りなく思いながら、上がった息を整える



すると、今度は部長の大きな手が私の両頬を包み込んで―――



「部長、あの‥‥?」



何気なく見上げた先にあったのは、先程までとは打って変わった真剣な瞳



「‥‥‥‥はづき」



「は、はいっ!?」



今まで仕事中にしか見た事がないような強い光りを帯びた視線に射ぬかれて、収まりかけていた私の鼓動は再び早鐘のように騒ぎ出した



だけど部長は、私の名前を呼んだ後もじっと私を見つめたまま



(え? もしかして‥‥‥部長ってばこんな朝早くから?‥‥でも、私‥‥)



心の中で、不安とちょっとだけ期待の混じった感情がぐるぐると入り混じって、私は部長のまっすぐな視線から逃れるように横を向いた



それに合わせるように首筋に下りてくる、部長の唇



「‥‥‥っ」



うなじから鎖骨の方へゆっくり滑っていく唇の熱に、ぞくりと体が震える



――――しかし



「何だ、はづき? 俺におはようのキスされるの、そんなに嫌なのか?」



すぐ耳元で告げられたその口調は、明らかに私の反応を楽しんでいた



「な‥‥‥!? もう、部長の意地悪!」



「はは、怒るな怒るな」



余裕たっぷりな表情に口を尖らせて抗議すると、堪え切れなくなったらしい部長が破顔する



「まあ、好きな相手ほどいじめたいってのが男だからな」



同時に、ちゅっと唇が軽い音を立てた



「‥‥‥‥っ!!」



続いてもう一度



それもさっきみたいなセクシャルなのじゃなくて、宥めるような優しいキスだなんて



そんな事されたら―――



「‥‥やっぱり部長は狡いです」




どうにかそれだけ言うと、背中に回された大きな腕がそっと私の体を抱き寄せた



「これぞ、惚れた弱みだな」



「自分で言いますか、それ」



二人しかいない部屋の中に、部長の楽しそうな笑い声が弾ける





「だって、そうだろう?」




その後も、部長は唇が触れるだけのついばむようなキスを何度も繰り返した



暖かい腕に包まれながら、私もつい笑ってしまう



(何だか、体だけ大きい子供みたい‥‥‥)




部長にこんな一面があるなんて、付き合い始めるまで知らなかった



もちろん、こういう所も全部引っくるめて、永坂部長の事が好き―――大好き



恥ずかしいから、とても自分からは口に出せないけど




(『幸せ』って、きっとこういう事なんだろうな‥‥)




心の中で呟いて、私は部長のキスを受け止める為にそっと目を閉じる





久しぶりに二人で迎える朝はとても幸せで、ちょっとだけ照れ臭かった





―END―

⇒あとがき

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