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想い重ねて(2/3)




「だってこの家は、やんちゃだった幼い頃の先生も、医師を目指して受験勉強を頑張っていた頃の先生も、全部知っているんでしょう?」



「それは‥‥‥‥そうか、以前小渡先生にお会いした時に何か聞いていたんですね?」



昔ながらの電灯の明かりの元、入江先生の頬がサッと赤くなる



(あ‥‥‥)



病院にいる時には絶対に見られなかったその表情に、まるで十代の女の子みたいに胸が高鳴った



もっと、この人の色々な表情を見てみたいと思ってしまう



けれど―――



「えっと‥‥あ、ここの疵は確か‥‥‥きゃっ!?」



私が大黒柱の上部に見つけた、古い疵を指差そうとした時



不意に肩に置かれていた入江先生の手に力がこもり、これまでよりちょっとだけ乱暴な仕種で、私は先生の胸に抱き寄せられていた



「い、入江先生?」



ぴたりと押し付けられた厚い胸から伝わる力強い鼓動に、服越しに触れている私の頬はどんどん熱くなっていくのに



それでも、愛しい人の腕は身じろぎすら許してくれなくて―――行き場のない甘い熱が、私の体の中を縦横無尽に駆け巡る



(もう‥‥今からこんな調子じゃ私、どうにかなっちゃうよ‥‥)



そんな、熱に痺れて力無くもたれ掛かった私の髪を、入江先生は感触を楽しむようにゆっくりと梳いていく



その優しい指先からするとからかった事を怒っている訳ではなさそうだけれど



「まったく、小渡先生にもはづきにも困ったものだ‥‥‥‥特に君だよ、はづき」



「え? ‥‥わ、私ですか?」



深いため息と共に吐き出された言葉に、そろそろと顔を上げる



すると、そこにあったのは紛れもなく策士の笑みで



「当たり前でしょう? はづき‥‥君は僕が、やり込められてそれで終わらせる男だと思ってるのかい?」



「それ、は――」



口許は確かに弧を描いているのに、瞳に宿す光りは肉食獣に近い



「愛していますよ、はづき―――幸い時間もたっぷりある事ですし、覚悟して下さいね?」



「‥‥‥正義の味方が悪役のセリフを言っていいんですか」



私の精一杯の応酬も、所詮は焼け石に水



「ふっ、はづきは手厳しいな」



「あ‥‥や、あ‥んっ」



耳元に落とされる低い囁きと、熱い吐息



ふくれた振りをしながらも、心の奥底でずっと待ち焦がれていたその熱さに体が震える



「はづき、愛してるよ」



(入江先生‥‥私も、私も貴方の事を愛してます)





『貴方に会えて良かった』





深く唇を重ねたまま、声にならない声で呟いた私の瞳から、幸せな涙が一筋流れた―――





―END―

⇒あとがき

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