幸せをあげる(1/5)
早朝。
まだ薄暗い寝室のベッドの上で、私はゆっくり目をあけた。
私のすぐ隣では、雅楽が静かな寝息を立てている。
いつもより少しだけ幼く見える、愛しい人の寝顔。
(‥‥‥‥ふふ、懐かしい夢見ちゃった‥‥)
私は、ついさっきまで見ていた夢を思い出しながら、指先でそっと雅楽の前髪をすいてみる。
「んん‥‥‥」
雅楽はちよっとだけ身じろぎしたけれど、目を覚ます様子はなかった。
ベッドサイドに置いてある目覚まし時計を見ると、まだ起きるにはちょっとだけ早い時間で。
(また、続きが見られるといいな‥‥‥)
私は、雅楽を起こさないように気をつけながら、その胸元に頭をすり寄せてそっと目を閉じた。
‥‥‥‥あれは、私と雅楽が付き合いだしたばかりの頃の出来事。
*****
5月も下旬に差し掛かったある日。
丸一日のオフをすっかり持て余してしまった私は、自主練習をしようとスタジオにやって来ていた。
廊下を歩きながら携帯の着信をチェックしてみたけれど、何の表示もされていない画面にため息ばかりが出てしまう。
朝から何度か雅楽にメールを送っているのに、未だに何の返信もないなんて。
雅楽は、ここ2、3日どこか様子がおかしかった。
正確に言うと、おととい新曲の打ち合わせでみんなで事務所に行った時、帰りがけに雅楽だけ矢内さんに呼び止められてから。
その後。
戻ってくるのを待っていた私と目が合った途端、雅楽はユデダコみたいに真っ赤になって私を置いて走り去ってしまったのだ。
昨日だって仕事はちゃんとこなしていたけれど、休憩中はずっと心ここにあらずだったし。
(雅楽、本当にどうしちゃったんだろう‥‥‥?)
ボンヤリとそんな事を考えながらスタジオの扉をあけた私は、驚いてその場に立ちすくんでしまった。
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