雨がやんだなら‥(2/3)
それにしても。
(……………夢、か。久しぶりだな、あの頃のコト夢に見るなんて………)
ふと思い付いて、ベランダに通じる窓にひかれた厚いカーテンを開けてみる。
するといつの間に降り出したのか、大粒の雨がサーサーと音をたてて降っていた。
(あんな夢を見たのは、この雨のせいか……。さっきの物音も………)
〜〜〜
再びネガティブな気分になりかけた俺の耳に、ケータイの着メロが飛び込んできた。
曲目はトロイメライのヒットナンバー。
俺は、慌ててソファの上に放り出してあったケータイをひっつかんだ。
「もしもし、ちとせちゃん?」
「あ、櫂。……遅くなっちゃってごめんね。私も仕事が押しちゃって、今家に帰って来たトコロなの」
聞こえてきた愛しい人の声に顔をほころばせながら、返事を返す。
「そうなんだ〜お疲れ様。雨も降ってるし、大変だったでしょ?」
「うーん、でも明日の朝には止むみたいだし。ちょっとだけワクワクしてるよ」
「え?……何でワクワクするの?」
「…………」
なぜかちとせちゃんは黙りこんでしまう。
「ちとせちゃん?」
「……櫂、笑わない?」
「笑わないよ。何?」
俺は、電話の向こうから聞こえてくる彼女の声に耳をすませた。
「…………昔読んだ絵本にあったの。雨が止んだら出る虹は、神様からのご褒美の合図だって」
「神様?」
「うん。お家の中でいい子にしてた子供達に、神様が雨でピカピカに磨きあげたキレイな世界をあげるよっていうお話なの」
「キレイな世界……」
「いっぱい我慢した分だけ、これからいいコトがたくさん有りますよっていう意味なんだって。素敵だよね〜」
(…………………!)
心臓をギュッとわしづかみにされた気がした。
思わず目を閉じて、深呼吸をする。
どうしてこの子は………。
ちとせちゃんは俺が見た夢も、その夢のせいで俺がどんな気持ちになっていたかも何も知らないのに。
どうして俺が心の奥底で望んでいた言葉を、こんなタイミングで俺にかけてくれるんだろう?
神様のご褒美?
……そんなモノが本当にあるとしたら、俺にとってのご褒美は間違いなくちとせちゃん、君だよ。
「……………い、櫂ってば。どうしたの、突然黙っちゃって………。あー、やっぱり呆れてるんでしょ〜!櫂ー?……聞こえてる?」
ケータイからは、盛大に拗ねた様子の君の声が響いている。
今の俺には、そんな声すら愛しくて。
俺は、すっかりむくれてしまったちとせちゃんを宥めながら、今まで味わったコトがないほどの幸福感に包まれていた。
これからは、雨の降る夜にも悪夢を見ないですむだろう。
ちとせちゃん。
大好きだよ。
ちとせちゃんが隣にいてくれたら、俺は前を向いて歩いて行ける。
それだけのパワーを君は俺に与えてくれるから。
だから。
「ちとせちゃん。今度は二人で虹を見付けに行こうか?……神様からのご褒美、二人で探そうよ」
これから先も二人でずっと、ね?
→あとがき
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