陽の当たる場所〜Session.1〜(3/4)
俺とちとせが付き合い始めてから既に数年
まだ籍こそ入れていないものの、半年前からはちとせが俺のマンションに引っ越してくる形で一緒に暮らしてもいる
ちとせとの新しい生活は、まさに『蜜月』だった
おかげでメンバー達にからかわれる頻度は、付き合っていただけの頃よりも最近の方が格段に多くなっている‥‥‥のだが
「ははは‥‥あの堅物やった龍が頬染めて照れとる姿なんて、昔は想像すら出来んかったわ」
「佐藤さん、本当にもうそのくらいで‥‥」
いたたまれない思いで、口許を手で覆って呻くように言った俺に、佐藤さんは意外そうな顔をする
「何や今更‥‥そない恥ずかしがらんでも、ちとせとの事ネタに弄られるんはメンバー相手に慣れとるやろ?」
「それは、まあ‥‥‥‥でもその時は、いつもそれなりの対処をしていますし」
「ほえっ?」
その瞬間、佐藤さんの笑顔がピシッと音を立てて固まった
やがて、恐る恐るというように口を開く
「あー‥‥あのな、龍?」
「何ですか?」
「その‥‥‥念の為に聞いときたいんやけど‥‥‥『それなりの対処』っちゅうんはメンバーか、それともちとせに対してか?」
その言葉に、龍はにこりと笑った
――――100パーセント、完璧な営業スマイルの龍は目だけは笑っていなかった
「嫌だなあ、佐藤さん‥‥‥俺がちとせの嫌がる事する訳ないじゃないですか?」
「‥‥‥‥‥さよか」
佐藤さんの乾いた笑い声が、静かな部屋に響いて、消えた
「開き直りって、あないに怖いもんなんやなあ‥‥」
俺が帰った後の応接室で、一人立ち尽くしていた佐藤さんがぽつりと呟いた
が、やがて何かを思い出したらしくはっと息を呑む
「‥‥って、ほうけとる場合とちゃうやろ、自分!」
「アカン! ちとせ、堪忍な‥‥‥‥足止めしとく筈が、ひょっとしたら思いっきりけしかけてしもたかもしれん‥‥‥こうなったら奥の手や!」
それから、携帯電話を取り出した佐藤さんが大慌てで誰かと話していた事を、この時の俺は知るよしもなかった
―END―
⇒あとがき .
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