Musician | ナノ


陽の当たる場所〜Session.2〜(5/6)



「ねえ、龍は午後は事務所に行くんでしょ? 佐藤さん、『新曲発売前の今のうちに、打ち合わせときたい事がいくつかある』って言ってたから、やっぱり遅くなるのかな?」



「さあ、そんなにかからないとは思うけど‥‥‥」



ちとせの口調が何だか寂しそうに聞こえて、俺は眉を寄せる



それでなくても、最近は我慢させてしまう事が多かったから、たまには息抜きするのもいいかもしれない



「なあちとせ、打ち合わせが早く終わったら、久しぶりに何処か外で待ち合わせないか? マスコミを気にしてばかりいたら、ちとせも息が詰まるだろ?」



明日はオフだから、少しはゆっくり出来るだろうし



言いながら、すぐ横に腰を下ろしたちとせの、取材用に軽く結い上げた髪に指先で触れる



だが



「えっ!? あ、あの‥‥今日はちょっと‥‥」



急に立ち上がったちとせは、見るからに慌てていた



いつにないその様子に、目を丸くする



「ちとせ? どうした、練習の後に何か用事でもあるのか?」



「う‥‥ある‥‥‥っていうか何て言うか、その‥‥‥」



「ちとせ?」



「‥‥‥‥‥っ」






一方こちらは――――




「なあ‥‥何だよ、あのバカップルな光景は?」



「もう、ちとせちゃんだって一生懸命なんだから意地悪言わないの! だけど参ったなあ、ちとせちゃんの事助けて上げたいけど‥‥龍は怖いし、かと言ってでしゃばる訳にもいかないし」



「龍のニブチン! イケズ!」



「しっ、瑠禾! 声が大きいっ!」






新曲発売の前にもらえる予定だったオフ



珍しくちとせから「まだ日にちが確定してないのなら、出来ればこの日が‥‥」と指定されたのは9月18日―――――他でもない、龍の誕生日だった



もちろんその意見は、龍以外のメンバーと敏腕マネージャーによって全員一致で可決されている








そしてその日は、いよいよ明日に迫っていた―――






―END―

⇒あとがき
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