Musician | ナノ


陽の当たる場所〜Session.2〜(2/6)


トロイメライは今日も、いつものスタジオで発売間近に迫った新曲の練習に没頭していた



ちとせが雑誌の取材を受ける為に練習を抜けるのに合わせて、他の面々も休憩にする



「‥‥ふう」



びっしょり汗をかいたシャツを着替えて、俺は缶コーヒーを片手に休憩室の壁に背中を預けた



すると、俺の目の前で足を止めた雅楽が、自分の眉間を指差しながら可笑しそうに笑う



「龍、まーた眉間にシワよってんぞ?」



「雅楽?」



「ったく、ちょっとちとせといちゃつくの禁止されたくらいで、いつまでもヘソ曲げてんなよな!」



「‥‥‥そんな事は」




確かに、今は新曲の発売が目前に迫っている事もあって、トロイメライはいつも以上にメディアに注目されている



だから念には念を、という事務所やプロデューサーの矢内さんの意見もあって、最近は俺もちとせも言動には細心の注意を払ってきた



(だからって別に、禁止されてる訳じゃないんだけどな‥‥)




そもそも、ちとせと付き合う事も一緒に暮らす事にだって、ちゃんと事務所の承諾は得ているのだ



―――まだ、正式に世間に発表していないというだけで






だが俺が言うより早く、櫂が雅楽の肩をペシッと叩いた



「イテッ! 何すんだよ、櫂!」


「何じゃないでしょー? ガッくんてば、すぐにイジワルな事言うんだから‥‥それとも、ひょっとして心配の裏返しとか?」



雅楽の顔がサッと赤くなる



「べ、別に俺はっ‥‥!」


「はいはい、ツンデレはガッくんの専売特許だもんねー」



「何でそうなるんだよっ‥‥つーか、俺はツンデレじゃねえって言ってんだろ!?」



「そうだよね、未だに無自覚なんだよね?」



「こんの帽子野郎‥‥‥っ!」



「はいはーい、ガッくんはここらでひとまず置いとくとして‥‥‥ねえ、龍?」


「え?」



抗議する雅楽を軽くいなした櫂が俺を見てにーっこり笑う



「真面目な話、たまにはいいんじゃないの? 二人の為にもなると思うよ? ‥‥‥龍もいい年なんだしさ、そんなにがっつかなくても」



『がっつく』って何だ、『がっつく』って



「俺は餓えた野獣か」



「んー、当たらずとも遠からず? もしくは『言い得て妙』」



「‥‥‥‥‥」




――――今の櫂には、きっと俺に見えないだけで、尖った耳と細くて長い尻尾が付いているに違いない





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