Ryu's Happy Birthday!『愛し方しか知らない』(2/5)
シン、と静まり返った龍の部屋。
そのソファで、私はクッションを抱えてうずくまっていた。
「‥‥‥‥‥」
今日だけは自分のマンションに帰る気になれなくて、ずっと前にもらったきりだった龍の部屋の合い鍵を初めて使ってしまった。
(あーあ、せっかくお祝いのご馳走も用意したのにな‥‥龍リクエストの特製アップルパイだって、今日食べないとしんなりしちゃうよー?)
龍のぬくもりや痕跡は部屋のあちこちにあるのに、肝心の龍の姿がないなんて。
龍に言った言葉も、嘘じゃない。
だけど、なんだかトロイメライのボーカルの「私」と龍の彼女の「私」が二人いるみたいに思えてきてしまって。
どうしても、胸のあたりがスッキリしない。
「‥‥ああもう、こんなんじゃ明日の練習で皆にも呆れられちゃう!」
そう言って私が大きなため息をついた時。
カチャ、パタン
静かに、けれど確かに玄関ドアが開く音がした。
(え?‥‥まさか!?)
反射的に壁掛け時計を見上げると、もうすぐ11時になろうとしている。
もしかして、と思いながら玄関に急ぐと
「やっぱりここにいたんだな」
部屋の奥からやってきた私に、龍はなぜか驚く様子もなくホッとしたような顔をする。
「龍!? 打ち合わせは‥‥」
「‥‥‥‥‥終わってからすぐに、ちとせの家に電話したんだ」
龍は私の頬に触れながら低い声で話し出す。
「え?」
(私の家、の? 携帯があるのに何で‥‥?)
「何度かけても留守電だから、こっちだろうと思ったんだよ」
「‥‥‥あ」
何か言わなくちゃ、と龍の顔を見上げた私は、気がつけばその大きな腕にすっぽりと包まれていた。
![](//static.nanos.jp/upload/s/spiralxxx/mtr/0/0/201308042204572.jpg) *illstlation:白夜*
「淋しい思いさせて悪かったな」
「‥‥っ」
そう言いながら私の頭をポンポン、とする龍。
『そんな事ないよ』
そう、言いたかったけど。
私はもう、龍のシャツをギュッと握りしめて小さな子供みたいに首を振る事しか出来なかった。
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