Musician | ナノ


その瞳に映るのは?(3/5)



「俺、が…何?」



一瞬、何を言われたのか分からなかった。



「皆だって、龍が何か悩んでるの分かってるよ」



「……龍は、他の皆みたいに、思ってる事話してくれないから。悩んでても、困っててもいつも一人で抱え込もうとするし!」



突然堰を切った様に話し出したちとせに驚きながらも、俺はあえて冷静に答える。



「そんな事言われても、俺が他のヤツらみたいに好きにやってたら収拾がつかないだろう?」



するとちとせは、むぅーっと膨れっ面になって横を向いてしまった。



「……そうやって、いつもはぐらかすんだから」



「…………!!」



弱々しく呟かれた言葉に、ちとせの寂しそうな横顔に、俺の心臓が大きく脈打つ。



今すぐにでも抱きしめたい衝動をどうにか押し殺して、口を開いた。



「昼休みに………ちとせと矢内さんが話してるのを、聞いた……」



俺自身も驚くほど、かすれた声だった。



「え?………あ、スタジオで………」



目を見開いたちとせの顔がみるみる赤く染まっていく。



やっぱり。



あの歌詞はちとせが、特定の誰かを思って書いたものだったのか。



「…………………」



俺はちとせから数歩分離れると、新しいタバコをくわえた。



火を点けようとした時。



「龍、だよ」



ちとせの小さな声が、聞こえた。



「え?」



ちとせを振り返ったが、完全に俺に背を向けてしまっている彼女の表情は分からなかった。



けれど、発する声は弱々しく震えていて。



「あれは………私が、龍を思って書いたの。……龍はどんなに見つめても、絶対本音を見せてくれなかったから。だけど……私は………龍が、好き、だから…」



そう言うなり、ちとせは出入口に向かって駆け出そうとした。



「ちとせ!!」









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