いっしょに帰ろう?(3/5)
〜櫂Story〜
開いたドアの向こうに立っていたのは櫂だった。
「ちとせちゃん、お疲れ様〜」
私と目が合うと、ニコッと人懐こい笑顔を浮かべる。
ついさっきまでステージで見ていた櫂とはまるで違う穏やかな笑顔に、私は未だにドキドキしてしまう。
「そういえば、他の皆は?……このまま帰っちゃってもいいのかな?」
私の控え室のソファに座って、櫂が買ってきてくれていた温かい紅茶の缶を両手で握りしめながら聞くと、櫂は小さく笑って頷いた。
「いいんじゃない?……サトヤンは挨拶周りしてたし、龍は偶然会った晋平さんと話し込んでたから」
そこで、何故か櫂は笑いだした。
「ええと……?」
困惑する私に、櫂はゴメンゴメンと手を振る。
「ガックンは瑠禾チンに引きずられて行ったよ。ひな祭り限定の、ケーキバイキングに行くんだって」
私も、思わずその光景を想像してしまった。
(雅楽、嫌がってたろうな〜……。それにしても…)
「ひな祭りかあ」
私の呟きに、櫂は『そうだった』と言って上着のポケットから小さな箱を取り出した。
そして、明らかにプレゼント用のラッピングがされているそれを私に差し出す。
「はい、ちとせちゃん。コレあげる」
「え?……あげるって櫂、私の誕生日は今日じゃないよ?」
「うん、知ってるよ」
そう言いながらも、櫂は私の右手にその小箱を握らせた。
「スタジオに行く途中のショーウインドーにあったピアスだよ。ちとせちゃんに似合うと思ってチェックしてたんだ。ひな祭り、女の子のお祝いにかこつけてっていうのは………ダメ?」
(う…………)
懇願する様に私の目をジッと覗き込んでくるなんて。
ダメ、なんて言える訳がないじゃない。
「……ありがとう」
途端に、満面の笑顔を見せる櫂。
(……ホントにもう…)
櫂がプレゼントしてくれたのは、ドロップ型の大人っぽいデザインのアクアマリンのピアスだった。
「ちとせちゃん、貸して。着けてあげるよ」
櫂の手がそっと私の耳に触れた。
櫂の真剣な眼差しがアップになって、私の鼓動はどんどん速くなっていく。
「はい出来た。……ちとせちゃん、顔真っ赤だよ?」
櫂の顔に浮かぶのは、悪戯っ子の笑顔。
これはもう、完全にからかわれている。
私があなたに勝てる訳なんてないのに。
だからね、櫂。
「ちとせ、カワイすぎ」
耳元に、キスなんてしないで〜
→シメは瑠禾
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