上手なキスの仕方を教えて(3/5)
聞こえてくるのは、庭の木の葉が秋の風にそよぐ音ばかりだった。
夕焼けが刻一刻とその濃さを増していく中。
堅司さんの温もりに包まれながらそっと周囲を見渡した私は、ある物を見つけてついクスッと笑ってしまった。
「ん?ちとせ、どうかしたんか?」
その様子に気がついた堅司さんがキョトンとした顔で首をひねるのに、私はある方向を指差してみせる。
「あそこですよ、あの木に咲いてる花が可愛いなと思って」
きれいに刈り込まれた背の低い庭木。
そのすぐ後ろにある高さ1メートルくらいの木が、その枝に可愛らしいピンク色の花を咲かせていた。
固い感じのする幹には痛そうなトゲがイッパイ付いているけれど、葉っぱはきれいな緑色。
そしてその花の形は‥‥。
「ね、まるで唇みたいでしょ?」
「‥‥‥‥‥‥」
(あれ?)
てっきり『うわ、ホンマや!』っていう声が帰って来るとばかり思っていたのに。
膝に手を付いて花を覗き込んでいた私が、ちょっと拍子抜けした気分で後ろにいる堅司さんを振り返ると。
なぜか彼は口許に手をやって、視線はあさっての方向に向けている。
顔が赤く見えるのは、決して夕焼けだけのせいじゃないと思うんだけど‥‥‥。
「堅司さん?」
すぐ傍まで近寄って下から見上げるようにすると、ようやく堅司さんは赤い顔をしたまま視線だけ動かして私を見た。
そのいつになく真剣な彼の目にドキッとしてしまう。
「なあ、ちとせ?」
「‥‥‥‥何?」
「ちとせはこの花見るの、初めてか?」
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