ブレイクタイム。(2/5)
「‥‥‥ふう」
陽気のいい日の昼下がり。
事務所で書類整理に追われていた俺は、休憩スペースにあるドリンクコーナーにやって来た。
眠気覚ましも兼ねて、ブラックコーヒーを買う。
缶の半分ほどを渇いた喉に一気に流し込むと、俺は自販機の隣にある窓から四角い青空を覗き込んんで呟いた。
「いーい天気やなぁ‥‥」
久しぶりにお天道様が元気に顔出してくれたっちゅうのに、こんな日に限って事務所から一歩も出られへんなんて。
愚痴の一つくらい言うても、罰はあたらんぞぉ。
残りのコーヒーを飲み干してから、俺はガチガチに固くなっている肩をぐるぐると回す。
「アイテテテッ!‥‥はあ‥‥シャレにならんて」
おっかしいなあ、まだ俺ピッチピチの二十代のはずなんやけどなあ‥‥。
今日はいつの間にか山の様に溜まってしまった書類を片付けるため、朝から事務所にこもりきりやった。
その書類の山もあらかた片付いてきて、ちょっと安心したのかも知れへん。
「ふわあ‥‥‥はあ〜ぁ‥」
伸びをするついでに、大きな欠伸を一つ。
ここ二、三日は睡眠時間が特に少なかったから、気力でカバーするのもそろそろ限界に近かった。
(‥‥まあ、この分なら『明日の約束』も大丈夫そうやし、ちょっとくらいならええかな‥‥)
俺の脳裏に、明日の約束の相手であるちとせの笑顔が浮かんだ。
ちとせは俺の大事な彼女やけど、俺がマネージメントを担当する超人気バンド『トロイメライ』の歌姫でもある。
当然、俺達が付きおうとる事はメンバーとごく一部の関係者しか知らん。
せやから、いくら俺がマネージャーとはいえ、スケジュールを都合して二人で過ごすなんて事はなかなか出来ひんのや。
そのめったにない日が、いよいよ明日に迫っているとなれば。
男やったら、無理の一つや二つはしょい込めるけど。
「‥‥さすがに三つめはきつかったわ〜‥‥‥は〜‥‥‥アカン、限界や」
結局俺は、缶コーヒーだけでは抑えきれなかった眠気に負けて、窓の向かいにあるソファに腰を下ろした。
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