Musician | ナノ


カワイイあの娘は誰のもの?(2/3)



ちとせは、俺が見つけ出してトロイメライにスカウトしたんや。


その声に惚れ込んだのはモチロンやけど‥‥‥俺は、彼女自身にも惚れとる。


黙りこくった俺の顔を、一条さんが面白そうに覗き込んできた。


「ふうん‥‥その顔は、佐藤さんにも惚れた相手がいる、言う事やな?」


「なっ‥‥一条さん!」


慌てる俺に、一条さんはヒラヒラと手を振る。


「今さら隠さんでもえーよ。恋する気持ちは誰にも止められへんし?‥‥そうそう、俺の気になる子もな〜めちゃくちゃ可愛いんよ」


堅司のこめかみがピクッと動いたが、慎之介はそれには全然気付かずにさらに続けた。


「ふんわりした笑顔がまた可愛くて、隣にいると安心して‥‥こう、ギューってしたなるんよ」


目を閉じてちとせの笑顔を思い浮かべているらしい一条さんに、俺の中で対抗心がムクムクとふくらんできた。


「俺のす‥‥き、な子やって、華奢ではかなげやのに頑張り屋さんなんやでっ!!」


「それに素直で無自覚で、たまに小悪魔なトコがまたたまらんのやっ!」


「‥‥‥‥‥‥」


(‥‥‥うわっ!)


ついついコブシを握って力説してしまった俺を、一条さんがポカン、とした顔して見とる。


あんまりジイッと見られてるもんで、俺も少し居心地が悪うなってきた時やった。


「‥‥佐藤さん」


「ハイ?」


「アンタ、そんな恥ずかしいセリフよう言えるなあ」


そんな事。


「‥‥‥‥先に言い出したのは、そっちやろっ!!」


こっ恥ずかしさで顔を真っ赤にした俺を見て、一条さ‥もう「さん」づけはいらん!‥‥一条はあろう事か腹を抱えて笑っとる。


「いやぁ、ちょっとカマかけたろ思ただけなんやけどな。こんなオモロイ反応返してくれるとは‥‥佐藤さん、アンタ今からでも芸人にならへん?」


あ、彼女と離れたないか。


‥‥‥‥ちょい待てよ。


「離れる」て何や。


眉をひそめた俺を横目に、一条は手を挙げて声を張り上げた。


「ちとせちゃーん!」


‥‥‥‥げ。


俺らの方を振り向いたちとせにおいでおいでをしながら、一条はニヤリと笑った。


「これで、まずは宣戦布告っちゅう事や。これからよろしゅーな、佐藤さん?」


(‥‥‥‥‥勘弁してくれ)


俺達の元に駆け寄ってくるちとせの笑顔に見とれながら、俺は盛大なため息をもらしたのだった。


(‥‥芸人の言う事なんか二度と信用せんからなっ!)





→あとがき

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