夏の夜の過ごし方?(2/3)
どれくらいの時間、そうしていたのか。
「不思議だよね」
目を閉じて耳をすましながら、瑠禾が言う。
「不思議って‥‥?」
抽象的すぎる瑠禾の言葉を問い返すと、瑠禾はゆっくり目を開いた。
「だって、そうでしょ?」
ひと呼吸置いてから、続ける。
「祭囃子なんて、毎年この季節に何度か聞くかどうかってくらいなのに‥‥あの音はいつの間にか、僕たちの耳にも心にもスンナリ溶け込んでるんだもん」
言われてみれば。
「‥‥‥‥そうだね」
こういう事をサラっと言える瑠禾は、やっぱりカッコイイ。
夏の風物詩、と言ってしまえばそれまでなんだけど。
よく考えてみたら、これってスゴイ事なのかもしれない。
だって、毎年メロディを聞いただけですぐに反応出来るくらいの『音楽』が今私達の目の前にあるんだから。
ねえ、瑠禾?
「ちとせ」
瑠禾が私の顔を覗き込んでくる。
それと同時に、繋いでいた手をギュッと力を込めて痛いくらいに握られた。
「僕たちはどうなのかな?」
「瑠禾?」
真剣な光を宿した瑠禾の瞳を、私もすぐ間近で見返す。
「トロイメライの歌も、こんな風にみんなの心にちゃんと何かを残せてるのかな?」
トロイメライの音をだれよりも大切に思っている瑠禾。
その瑠禾の目を、私もまっすぐに見返した。
「私は、そう信じてるよ?」
瑠禾が目を見開く。
私はそんな彼にニッコリ笑いかけた。
「瑠禾もそうでしょ?」
「‥‥うん」
それから。
極上の王子様スマイルを浮かべた瑠禾が、ゆっくりと顔を近づけてきた。
(あ‥‥)
私は甘い予感に目を閉じた‥‥‥のだけれど。
(‥‥‥‥?)
一向にその瞬間がやって来ない。
(‥‥‥‥‥)
代わりに、今度はものすごく嫌な予感がしてきた。
「‥‥‥‥‥ええっと、瑠禾?‥‥どうか、した?」
思い切って目を開けてみる。
と同時に、瑠禾の綺麗な指に私の鼻をつままれた。
「〜〜〜〜〜っ!」
「ちとせのその顔、すごくカワイイ」
してやったり、という小悪魔な笑顔を浮かべる瑠禾。
そんな彼の手は、まだ私の鼻をつまんだままで。
「‥‥‥‥‥」
私は渾身の力を込めて、その指を引きはがした。
それから。
「瑠禾っ!!‥‥もう、待ちなさい!」
「え〜、ヤダ」
「駄々こねないの!」
何とか捕まえようとする私の腕をゲーム感覚でよける瑠禾。
真剣だったりカッコよかったり。
そうかと思えば、こんなイタズラしたりもする。
素敵な所もいっぱいあるけど、付き合いだしてからはイタズラの頻度も確実に増えている。
それだけ私に心を許してくれてるんだろうけど‥‥‥。
それでも、ね?
「ちとせ怖〜い、教育ママみたいだね」
「‥‥‥‥‥ママをからかうんじゃありませんっ!」
とりあえず、今夜はお説教決定なんだから。
覚悟してね、ダーリン?
→あとがき .
[←] [→] [back to top]
|