Gaku's Happy Birthday!『きみの心に触れさせて』(2/3)
「えっ!?」
突然の声に顔を上げると、いつの間にか目を覚ましていたらしい雅楽と目が合った。
「ちとせ」
「な‥‥が、雅楽!?」
驚いて固まっている私に、雅楽は不敵に笑って見せる。
「なあちとせ‥‥メシは後でいいから、もうちょっとここにいろよ」
そして起き上がろうとしていた私の体をグイっと両手で抱き寄せた。
「きゃっ」
雅楽の体の上に倒れ込む格好になった私の背中に、雅楽の腕が回される。
私がどうにか抜け出そうともがいてみても、雅楽は余裕の表情だった。
そのまま私の頬に軽くキスして、首筋に顔を埋める。
「元旦生まれなんてからかわれてばっかでウンザリしてた時期もあったけど、こうしてちとせが祝ってくれるんだったら案外悪くねえかもな」
「雅楽‥‥あっ‥‥」
雅楽の吐息が私の耳元を掠める。
腕の中で小さく声を上げた私を見て、雅楽は楽しそうに笑った。
「ちとせってホント、弄りがいがあるよな」
「‥‥‥‥っもう!」
わざと私の弱い所ばかりに唇を寄せてくる雅楽に声を上げると、私と視線が合った雅楽がパッと顔を赤くした。
「雅楽?」
渋い顔をして前髪をかきあげる雅楽。
「まずった‥‥」
「?‥‥‥きゃっ!」
雅楽の言葉と同時に軽い衝撃があって、私はとっさに目をつぶる。
そして気がついた時には、雅楽と上下が入れ替わって私が雅楽に組み敷かれる態勢になっていた。
私を見つめる雅楽の目は熱く潤んでいて、切なそうに囁かれる声に私の胸が大きく高鳴る。
「そんな顔されたら、ガマンなんて出来るワケねーだろ?」
「そ、そんな顔って言われても‥‥んんっ!」
強引に唇を塞がれて、私はすぐに息が上がってしまう。
「ん‥‥はぁ‥あ‥‥‥‥が、く‥‥‥っ」
苦しくなって雅楽の胸を何度か拳で叩くと、ようやく少しだけ体を離してくれた。
「ちとせ、やっぱごちそうは明日にしようぜ」
「‥‥‥‥?」
呼吸を整えながら首をかしげる私に、雅楽はニヤリと笑う。
「今日は作ってる暇なんてやらねーからな」
「!!」
言葉の意味を理解した私の顔が、火がついたように熱くなる。
そんな私の様子を余裕の表情で見下ろしていた雅楽は、スッと真面目な顔になって私の体をギュッと抱き締めた。
「なあ,ちとせ」
「‥‥‥‥雅楽?」
「ずっとこうしていようぜ‥‥‥‥来年も再来年も、お互いの誕生日をずっとこうやって祝っていきたいんだ」
「雅楽、それって‥‥」
抱き締められた態勢のまま視線を巡らせると、髪と同じくらい真っ赤になった雅楽の耳が見えた。
「‥‥‥‥っ」
その瞬間、私の瞳から堪えきれずに涙が零れ落ちる。
「なっ‥‥ちとせ、お前何泣いてんだよ!?」
「だって‥‥」
「ったく、しょーがねーな」
雅楽は呆れたように言って私の涙を指先でそっと拭うと、もう一度私の唇を自分のそれで塞ぐ。
その口づけは今までで一番優しくて、そして今までにない激しさを秘めていた。
そしてこの日。
私は雅楽の宣言通り、誕生日のごちそうを作る事はなかったのだった。
―終―
⇒あとがき
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