Musician | ナノ


幸せをあげる(2/5)

「雅楽!」


そこに、雅楽がいた。


スタジオの床に座り込んで、壁にもたれてうたた寝をしているらしい。


丸められたレポート用紙らしい紙が、雅楽の周りにいくつも積まれて山になっている。


近寄っていくつか手に取って見てみると、その紙のほとんどに雅楽の字で歌詞らしきフレーズが走り書きされていた。


(もしかして、この紙屑の山全部がそうなの?‥‥あれ、でも‥‥)


確か、私達の新曲は映画のイメージソングになる事が決まっていて、ストーリーとリンクさせなければならなかったはずだ。


私達がその説明を受けたのがおとといなんだから、先方との打ち合わせなんて済んでいるワケがない。


だとしたら、これは何のための作詞なの‥‥‥?


不思議に思った私が、雅楽の側にひざまずいて顔を覗き込んだ時。


気配を感じたのか、雅楽がゆっくりと目をあけた。


「あ、雅楽起こしちゃった?」


「‥‥‥‥‥‥‥」


「えーっと、雅楽?」


「‥‥‥‥‥‥‥」


まだ半分寝ぼけているのか、雅楽は黙ったまま私の顔をジッと見つめてきて‥‥‥不意に驚いた顔になった。


「う、うわああぁぁっ!」


‥‥‥もしもし雅楽さん?


「私はお化けじゃないんですけど?」


ニッコリ笑う私の笑顔に、雅楽の頭もようやく覚醒したらしい。


「‥‥‥‥‥あ」


「‥‥‥‥」


やっちまった、という顔をする雅楽に私はもう一度ニッコリと笑った。





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