Musician | ナノ


サクラ〜緋い花〜(3/4)



携帯電話の画面には、今まさに10時になったと表示されていた。



ちとせも、俺の携帯と呆然とする俺の顔を交互に見ている。



「雅楽?」



「は……?何でだよ……だってリビングの時計は、確かに10時になる所だったんだぞ…だから俺は…」



それからマンションを出て、ここでちとせを見付けて……。



なのに、何でまだ10時なんだ?



どう考えてもオカシイだろう。



軽くパニックになっている俺に、ちとせは恐る恐るといった感じで問い掛けてきた。



「……あの、ね…雅楽。雅楽が言ってるリビングの時計って壁にかかってるアナログの、だよね?」



「?…ああ、そうだけど」



ちとせは何故か俺から目を逸らして、あちゃーと小さく呟いた。



「………?」



まったく話が見えない。



訳が分からず眉をひそめる俺に、ちとせは突然頭を下げた。



「雅楽、ゴメンなさい……ああ、私がちゃんと言っておけば良かったのよね」



「………だから、何をだよ?」



少しだけイライラした口調で、ちとせに問い掛けると。



ちとせは、上目使いで俺の顔を覗き込みながら言った。



「あのね、雅楽………」



「あ?」



「雅楽が見た、リビングのあの時計だけどね………」



「うん?」



「アレも電池が切れちゃって、夕べからずっと止まったままなの」



「…………………………は



つまり。



(………えーと?)



雅楽の顔が一瞬で茹でダコの様に真っ赤になった。



「な、な……何だそりゃ……つーか、ちょっと待て……ちとせ



完全にパニくってしまっている雅楽。



さっきまでの甘いムードはもうすっかり消え去ってしまった。



いけないと思いつつも、私の顔には堪えきれない笑みが浮かんでしまう。



そして雅楽が、それを見逃すはずもなく。



「ちとせ?……なに笑ってんだよ……



ホラ、帰るぞ



真っ赤な顔のまま、公園の出口へ向かって歩き出す雅楽。



「あ、雅楽!…待ってよ〜」



慌てて追いかける私から目を逸らして、それでもぶっきらぼうに私に手を差し出してくれる雅楽。



「そうだ……作詞の方はどうなってるの?」



「!……知るか



「え〜



なかなか甘いムードのままではいられない私達だけど。



こういう幸せの形もアリ、だよね?







→あとがき



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